※4/21追記
国の令和2年度補正予算で「地方創生臨時交付金」として全国に総額1兆円が交付されることになりそうです。これを財源として地方でも様々な事業を実施できるようになりそうです。
4/21追記ここまで
東京都に続き、川口市、富士吉田市、小田原市が緊急対策を実施へ
4月10日、東京都の小池都知事は、緊急事態措置期間中、都の要請に全面的に協力いただける中小企業の皆さんに協力金を支給すると発表しました。これらに先立ち、4月8日の段階で全国知事会は「緊急事態宣言を受けての緊急提言」を行っており、その一番目に「イベント等の開催や事業活動の自粛など感染防止のための協力要請に対する補償等」が記載されています。
緊急事態宣言を実効性のあるものにするためには、できるだけ多くの企業・店舗に休業をしていただかなければならない。そのためには休業補償が必要という当たり前の認識で全国知事会も国に要請したわけですが、国は個別の補償をしないという立場を崩さないため、東京都が先陣を切って独自支援を発表したわけです。
これに対し麻生副総理兼財務大臣は同日の記者会見で「東京都は払うだけの資金を持っているのだろう。他の県でもそれをやれるのかという感じだ」と述べました。神奈川県の黒岩知事が、協力金については「検討中」と述べたほかは、道府県で独自の協力金についての発表はありませんが、市レベルでは次々と独自支援策が発表されました。
例えば、埼玉県川口市は、売り上げが減少するなど影響を受けた小規模事業者に10万円程度を一律給付する支援策(総額約15億円)を含む総額35億円超の緊急経済対策を実施すると発表しました。補償の財源は、市の財政調整基金の一部を活用するとしています。
また、山梨県富士吉田市は、新型コロナウイルスの感染拡大で冷え込む地域経済を下支えするため、全市民約4万8千人に「コロナ撲滅支援金」として一律1万円を給付することを発表しました(富士吉田市 記者発表資料)。
さらに、神奈川県小田原市は、市の財政調整基金から10億円を拠出し、新たに「小田原市 新型コロナウイルス感染症緊急対策基金」を創設し、迅速な緊急経済対策や感染症対策(①新型コロナウイルス対策特別融資の創設、②事業継続や雇用維持に取り組む市内事業者などを支援する補助制度の新設、③感染症対策を実施すると発表しました。
http://www.city.odawara.kanagawa.jp/emergency/coronavirus/p29336.html
独自支援の実施には優良な財政状況が不可欠
4月7日に発表された新型コロナウイルス感染症緊急経済対策に係る国の令和2年度一般会計補正予算(第1号)は総額16兆7058億円。その財源は全て国債で、そのうち14兆4767億円は特例公債(赤字国債)です。
国では建設事業以外でも国債を発行できます(その是非はともかく)が、都道府県や市町村は赤字地方債を財源として同様の緊急経済対策を行うことができません。国のように借金をして住民に協力金や支援金を配ることは法律上できないのです。
地方が協力金や支援金を配るとしたら、その財源はその年度の収入(基本的には税収)か、家計の貯蓄に当たる基金ということになります。これらの状況を見てみましょう。
都道府県間の収入の格差
地方財政においては、地方自治体間の「財源の不均衡」を調整して、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう財源を保障する「地方交付税制度」があります。
詳しくは総務省のホームページ(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouhu.html)をご覧いただきたいと思いますが、この地方交付税を算出する際に用いられる「基準財政需要額」と「基準財政収入額」を見ると東京都の収入がいかに圧倒的であるかが分かります。
都道府県で地方交付税を受けていないのは東京都だけ。東京都以外は、地方交付税を受けて何とか標準的な行政サービスを提供できるという状態です。麻生大臣の発言も、これを念頭に置いたものだと思います。
財政調整基金の残高の格差
では貯蓄の状況はどうでしょう。使途が限定されない貯蓄としては「財政調整基金」が挙げられます。財政調整基金の残高は総務省のホームページに掲載されており、誰でも見ることができます。
財政調整基金の残高について東京都とその隣接3県を比較すると一目瞭然。人口1人当たりの残高は、まさに桁違いです。埼玉県に至っては東京都の37分の1しかありません。また、千葉県は埼玉県と比べるとかなり余力があるように見えますが、令和2年度の当初予算で500億円を取り崩しており、財政調整基金はほぼ枯渇しています。「ない袖は振れない」のが現状です。
また、今回何らかの独自支援を発表した3市(川口市、富士吉田市、小田原市)はいずれも普通交付税の交付団体で、特段、税収に恵まれた市ではありません。しかし財政調整基金の残高を見ると、多少の余力がありそうです。
川口市の財政調整基金の残高は約145億円で、今回の支援策が約35億円(基金残高の約24%)。富士吉田市は残高が約42億円で給付金は約5億円(約12%)、小田原市は残高が約61億円で、コロナ対策が約10億円(約16%)。財政状況を大きく悪化させずに拠出できる範囲で緊急対策を講じているように見えます。
自治体独自の緊急対策 3つの課題
財政状況が優良、特に財政調整基金が残っている自治体では、それを財源に独自対策の実施が可能であることを見てきましたが、それでもなお残る課題について考えます。
1 感染拡大の防止につながるか
東京都の協力金の目的は明確で、企業に休業を促し、人と人との接触を減らすことです。しかし対象はあくまで中小企業に限定しているので、どこまで効果が出るかわかりません。東京・埼玉・千葉・神奈川の広い地域で、大企業も含めて休業が広がらないと、結局多くの人が移動してしまい、感染拡大を防げません。特に北本市のような小さな市で独自に休業補償などの対策を講じても、従業者の3分の2が市外で働いている現状では、効果が薄いと考えます。広域での連携が不可欠です。
2 緊急事態措置はいつまで続くか
感染の拡大を防げなければ、緊急事態措置は継続されるでしょう。そうなれば住民から追加支援を求められる可能性があります。なけなしの貯蓄を取り崩して実施する緊急対策ですが、市民が自分の自治体の財政状況をきちんと理解しているとは限りません。繰り返し緊急対策を実施すれば、基金もあっという間に枯渇します。財源に限りがある以上、緊急対策は何度もできるものではありません。
3 最終的に国が助けてくれるのか
国難だから最終的に国が何らかの形で財政支援をしてくれるだろうという期待のもとに、独自支援を講じるのも危険です。国が助けてくれなければ、将来的に行政サービスの縮小や、増税、手数料の引上げという形で、住民負担が増えます。国が助けてくれる補償などどこにもありません。
独自の緊急対策は、住民に寄り添った、勇気ある決断に見えるものです。しかし、財政状況は自治体によって全く異なります。他の自治体がやっているからと住民から厳しく求められ、財政状況が厳しい市町村までこぞって緊急対策を実施するようになるのではと危惧しています。家計と同じで「よそはよそ、うちはうち」という感覚が必要です。
特に、一律の一時給付金については、緊急事態措置期間中の生活費を補うのに十分な額を支給することは到底不可能です。一人あたりに配る額は少額でも、全市民に配れば財政状況を圧迫します。得られるものと失うもののバランスをしっかりと考慮すべきと思います。
できない理由は要らない。やれる方法を探せ。
県職員時代「できない理由は要らない。どうやったらできるか考えろ。」と言われたものです。財政状況の厳しい北本市でも緊急対策を実施するとしたら、どのような方法が考えられるでしょうか?
北本市として考えられる財源の捻出方法は、
- 当初予算の組み換え
- 財政調整基金の取り崩し
- 特定目的基金の活用
- 職員人件費のカット など
が思いつきます。いずれも安易にできるものではなく大きなリスクを伴ういわば「奥の手」で、今の段階で推奨するものではありませんから、具体論への言及は避けておきます。
国が休業補償を出すのがスジ
全国知事会が国に対して休業補償を求めているのは、感染拡大防止には広範囲に渡り一律に休業してもらう必要があること、財源を赤字国債で賄うことができることなど、十分に合理的な理由があるものです。
国が実施しないからと地方が独自に支援を始めると、危機的な財政状況にある自治体を巻き込んだ「チキンレース」になりかねません。国が自らの責任を放棄して地方自治体同士の競争を煽るのは、ふるさと納税制度でも見られる国の常套手段です。
うちの首長はだらしない、決断力がないなどと非難することはできるだけ避け、「国の責任でやるべきだ」と声を挙げていただきたいと思います。