新型コロナウイルス感染症に対応するための一般会計補正予算について、すでに2度の専決処分が行われています。今回は専決処分について解説し、北本市の行った専決処分の妥当性について見解を述べます。
専決処分には2通りある
専決処分とは議会が議決すべき事件(議決事件)について、長が議会に代わってこれを処分することを言います。議会を通さずに長が決める、ということです。
地方自治法では2通りの専決処分が定められています。
180条に定める専決処分は、議会の権限に属する事項のうち、事前に議会が指定した軽易なものについて、長の権限において専決処分できるとされています。市議会が事前に認めているものなので、議会の承認は不要で、専決処分したことを次の議会で報告すれば足ります。
北本市議会が指定している事項は次のとおりです。
179条に定める専決処分は、特定の場合に長が専決処分できるとされているもので、次の議会において議会の承認を受ける必要があります。ただし、承認されなかったとしても、専決処分の効力に影響はありません。
179条の規定により専決できる場合は、次の4つです。
- 普通地方公共団体の議会が成立しないとき
- 第113条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき
- 普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき
- 議会において議決すべき事件を議決しないとき
令和2年度に北本市が行った一般会計補正予算第1号及び第3号の専決処分は、3の緊急を要するために市長が専決処分したものです。
「時間的余裕がない」とは
特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるときとはどういう場合を指すのでしょうか。
議会の招集は、原則として開会の日前7日(町村の場合は3日)までに告示する必要がありますが、緊急を要する場合には必ずしもこの告示期間を置くことを要しません(地方自治法第101条第7項ただし書き)。
しかし、いかなる場合でも、常に少なくともすべての議員が開会までに参集しうる時間的余裕を置いて告示しなければなりませんので、そうした時間的余裕を置いたのでは時期を失することが明らかであると認められるときに専決処分が認められます(『新版逐条地方自治法第9次改訂版』松本英昭著、学陽書房)。
その認定は長が行いますが、自由裁量ではなく、羈束裁量に該当するもので、長の認定には客観性がなければなりません(行政実例 S26.8.15)。
4月30日の専決処分の妥当性
新型コロナウイルス感染症対策として、国が補正予算案を国会に上程したのが4月27日、可決されたのが4月30日でした。この補正予算には、国民1人に一律10万円を給付する予算が含まれていました。
この給付金を一刻も早く支給するため、国の補正予算が成立する前に「見切り発車」で支給のための事務を開始している自治体もありましたが、スジとしては国会の可決を待って開始すべきものと私は考えます。万が一にも国会で認められなかった場合、莫大な金額を市町村が自己負担しなければならなくなるからです。
では、北本市で4月30日に臨時会を開催することができなかったかと言えば、できないことはなかったかもしれません。例えば、埼玉県議会は国会の日程を見越して4月30日に臨時会を開催しました(4月24日召集)。
しかし4月30日の直前は、執行部は10万円の給付金を配布するための準備を大急ぎで進めるなど、新型コロナウイルス感染症対策に必死に取り組んでいる最中で、補正予算案をまとめる時間(と人手)が足りなかったのも事実です。臨時会を開くことが法律上は適切だったかもしれませんが、実務的にはかなり困難だったと言えるでしょう。
この専決処分については、5月19日の市議会臨時会において、全会一致で承認されました。
5月22日の専決処分の妥当性
5月19日の臨時会の時点では、市長の意思としては、6月定例会に補正予算(第3号)を上程するつもりだったようです。
しかしその臨時会において、新型コロナウイルス感染症に関し7項目について迅速な対応を求める決議が可決されたことを受け、定例会を待たずに実施することを検討したようです。
臨時会の直後には、議会の代表者会議で説明をした後に専決処分するという案も出されましたが、代表者会議を開けるくらいなら臨時会を開ける可能性も高いです。つまり時間的余裕があるということになります。
しかし、市民や事業者への支援は一刻も早く行う必要があります。市の独自支援について、桶川市は5月11日に、鴻巣市は5月15日に発表をしており(いずれも専決処分)、北本市が遅れをとっているのも事実でした。
こうしたことから、三宮市長も5月22日(金)に専決処分を実施し、25日(月)に緊急対策パッケージの記者発表を行いました。
市民のために一刻も早い支援を実現する観点から、専決処分を決断した時点では他に方法がなかったとは思いますが、最初から5月下旬に専決処分すると決めて逆算して行動していれば、臨時会に提案できたのではないかと思います。これは次章で詳しく説明します。
いずれにしても5月22日に専決処分がされましたので、次の議会(おそらく6月定例会)で議会に承認を求める議案が提出されます。専決処分の是非については、ここで議論することとなります。
市長はもっと計画的に行動を!
地方創生臨時交付金が交付されることは4月中旬の時点で分かっていました。私がツイッターで「人口按分なら北本市への配分額は2.5億円程度か」(実際に示された額は約2億円)とつぶやいたのが4月20日です。本来この時点で、市長は職員にアイデア出しを指示しなければいけません。
5月1日に臨時交付金に関する総務省の説明会があり、詳細が発表されました。また、5月7日に北本市議会の議員が議員報酬を削減するため臨時会の招集を市長に請求しました。市長は、請求から20日以内に召集する必要があります。臨時交付金の計画書を総務省に提出する期限は5月29日ですから、遅くともそれまでには臨時交付金を活用した支援の内容が決まっていなければなりません。
5月7日の時点で、どのくらいの日数で計画がまとめられるかを逆算して臨時会の日程を決めておけば、1回の臨時会で5月22日に専決処分した分まで臨時会で審議できたわけです。本来はこうしたロードマップを事前に作成し、あとは計画通り進めることが重要なのですが、現状は市長が朝令暮改を繰り返し、度々変更される方針に職員が振り回されているように感じています。
5月25日に首相が記者会見を開き、2次補正予算案を27日に閣議決定すると発表しました。北本市においても、次こそは後手後手に回らないよう、今からこの先に起こることを予測し、計画的に行動していただきたいと思います。