令和4年10月3日(月)から5日(水)の日程で北本市市議会健康福祉常任委員会の行政視察に行ってきましたので報告します。
1日目 愛知県刈谷市 子育てコンシェルジュ
2日目 愛知県豊田市 子ども条例、不良な生活環境を解消するための条例
3日目 愛知県長久手市 重層的支援体制整備
1日目 愛知県刈谷市 子育てコンシェルジュ
愛知県刈谷市は豊田市に近くデンソーなどトヨタ関連企業の本社がある人口約15万人の都市です。25歳~49歳までの人口が多く、子育て世帯が多いものの、核家族が多く、子育てに悩みを抱えている人も少なくないとのこと。
子育て世帯にとって、多様な施設や事業の中から自分に必要なものを選んで利用することは用意ではありません。刈谷市では子ども・子育て支援制度の利用者支援事業として『子育てコンシェルジュ』を配置しています。子育て世帯がコンシェルジュに悩みを伝えることで、適切な施設や事業を紹介してくれます。
子育てコンシェルジュ自体は珍しいものではありませんが、刈谷市では全部で43施設、66人ものコンシェルジュを配置していることに特徴があります。専任の子育てコンシェルジュは3つの子育て支援センターに計5人配置。専門員として総合的な利用者支援や地域連携の各として活動しています。兼任の子育てコンシェルジュ計61人は、公立の保育園や幼児園の園長が兼任しています。身近な施設で相談をできるようになっています。
多くのコンシェルジュが園長と兼任なので財政的には大きな負担にはなっていないようですが、制度開始当初は園長の協力を得ることが難しかったようです。コンシェルジュとして活動するために研修で様々な情報を提供することで、園としても有効であることが理解され、積極的に取り組んでいただけるようになったとのことでした。また、6つの中学校区ごとに年2回の地区別ネットワーク会議を開催し、個別具体的な支援の検討や抽象的な事例研究などを実施しています。
課題として、更なる社会資源の掘り起こしや、兼任子育てコンシェルジュへの配慮があるとのことでした。
主な質疑
Q.専任コンシェルジュの雇用形態等は。
A.1名は職員(保育士・会計年度任用職員)で他の4名は委託です。
Q.相談の方法は。
A.基本は窓口。兼任コンシェルジュへの相談はほとんどが直接会ってという形。子育て支援センターでは電話やZoomも可能としているが約8割が窓口。
Q.どんな相談が多いか。
A.身近な遊び場についての質問が多い。発達支援に関する質問も多い。
Q.コンシェルジュ向けの研修の内容は。
A.療育支援、障害者手帳・受給者証の発行の流れ、インクルージョン、多様性、ジェンダーレス、ひとり親世帯への支援、外国籍の方への支援など。
2日目 愛知県豊田市 ①子ども条例
豊田市は世界的な自動車メーカーであるトヨタ自動車の企業城下町で、人口約42万人、面積918㎢と北本市が参考にするには大きすぎる都市ではありますが、子どもの権利に関することと、ごみ屋敷解消のための取組を実施していることから、視察先として選びました。
子どもの権利の関係では、まずは『子ども会議』について調査しました。豊田市では市内在住・在学の小学5年生から高校3年生までを対象に子ども委員を公募し、毎年委員を選任しています。令和4年度は32人で特に学校に推薦を依頼することなく公募だけで集まっています。子ども委員のサポート役として大学生サポーター10人も公募しています。子ども会議の委員だった子がサポーターとして応募することも多いようです。
令和3年度からは事前にテーマを決めることにしました(令和4年度は文化・スポーツ)。子ども会議の最初の2回は進め方や豊田市の文化・スポーツについて学び、様々なスポーツ・文化の体験を経て、何度かのミーティングを行い、年度末のWE LOVE とよたフェスタで最終発表を行います。
市では、子ども総合計画の策定時や教育行政計画の策定時に子ども会議に意見聴取を行ったほか、子ども条例を普及するためのマスコットキャラクターの募集等について、提言を実現してきました。今では市役所内にも所掌する事務について子ども会議で意見を聴こうという考え方が定着してきたとのことです。
次に『子どもの権利擁護委員の活動』について調査しました。令和3年度の相談は延べ382件、新規相談は82件。申立てが1件、擁護委員の発意が1件です。申立てに至らない相談の段階で、相談者以外に対して働きかける「事実上の調整活動」を行っているか確認したところ、豊田市子ども条例第22条第1項で擁護委員の仕事として「必要な情報収集」を規定しており、事実確認をしながら働きかけを行っているとのことでした。また、いじめ事案については教育委員会との間で「子どもの権利侵害対応ガイドライン」を定めています。擁護委員は、月に市の依頼に基づいて講演会や研修会を実施。特に学校向けの研修を強化しており、全中学校を回って研修を実施しています。また、相談への対応などについて月に2回定例会を開催し、擁護委員が出席し、方向性の検討などを行っています。実際に相談を受ける相談員は専門職と一般職がおり、専門職が相談の対応や啓発を主導しています。一般職も電話相談は受けています。
学校での普及について、子どもの権利学習プログラムを策定しています。幼児向け、小学生向け、中学生向けがあり、先生用の指導書も作っています。学校の希望があれば権利擁護委員が出向いて研修を行います。こども基本法の制定や生徒指導提要の改訂により関心が高まっており、特別授業の依頼が増えるなど、先生たちの意識も変わってきているようです。
主な質疑
Q.子ども委員の構成は。
A.半分が小学5,6年生。次に中学1,2年生が多く、高校生は少ない。受験生は少ないが合格した次年度に戻ってくることもある。大学生サポーターは1,2年生が多い。
Q.先生にとって負担になっていないか。
A.拒否反応も想定していたが、学校との対立を企図したものでないことを丁寧に説明し、理解を得ている。
Q.擁護委員に相談することで、加害者の方が身構えて対立的になることはないか。
A.擁護委員自体はフラットな立場として相手の言い分も聞くようにしている。
2日目 愛知県豊田市 ②不良な生活環境を解消するための条例
豊田市では市民から相談のあったいわゆるごみ屋敷状態の家について行政代執行により片付けを行うなどして対処してきましたが、片づけても解消には至らず、またごみが溜まるという状況が繰り返される中、近隣を巻き込む形で火事が発生してしまいました。最悪の事態を防げなかった反省から「制度を整える」ために条例を制定しました。
本人が片付けるのがスジですが、それでは解消しません。行政職員と地域の住民も一緒になり支援をしながら改善する方法を選びました。京都市の条例に倣って、豊田市でも条例を制定しました。福祉的な支援が中心となりますが、それだけでは解決できないため、規制的な手法も規定しています。しかし条例制定以降、行政代執行を行った事例はありません。あくまで片づけを促す手段の一つとして使っています。誰かの財産を片付けることになるため、専門家の意見を聴く仕組み(審議会)も設けました。条例制定の意義として①ごみ屋敷に向き合う意識と組織ができたこと、②個人の財産に介入する悩ましさについて審議会で学識から意見をいただけるので自信を持って決断できること、の2点が挙げられます。
環境改善の手法は、行政職員や地域住民が粘り強く本人に働きかけ、一緒に片づけるというものです。市が収集車を所有し、職員が中心となって片づけるため、ごみ処理に多額の費用を要することはありません。ごみ処理費用として10キロ60円の自己負担が発生します。生活保護受給者などには免除も可能です。
環境部門だけだとどうしても規制的な手法になってしまうため、福祉部門と連携し、支援を行うことが重要です。環境部門と福祉部門での押し付け合いだけは絶対にやめようと決めています。
Q.認知症からごみ屋敷化することはあるか。
A.認知症であればごみ屋敷化する前に対応するべき。自宅までごみを収集に行くサービスもある。福祉的な支援で何とかなる。
Q.実際に片付けに入るタイミングは。
A.地域の協力が不可欠。自治会長がキーマンになることが多い。地域の方の協力が不可欠。役所で何とかしてくれ、という状況では踏み切れない。本人との関係性もある。財産を処分するのだから関係性が築けていないとできない。本人に確認しながら処分していくが、訴えられるかもしれないという状況では無理。
3日目 愛知県長久手市 重層的支援体制整備事業
長久手市では重層的支援体制について視察しました。長久手市は2005年の愛・地球博の会場になった場所として知られ、今年11月にはジブリパークが開園します。人口、面積と北本市と同規模ですが、平均年齢は40.2歳で、日本一若い市です。豊田市に近い東部は古くからの住民が多く、高齢化が進んでいます。一方、名古屋市に近い西部は新興住宅地で若い人が多く、現状では介護が必要ありませんが、自治会加入率が低く、住民同士のつながりが希薄です。赤の他人村という側面があり、困ったことは行政にお任せになってしまってはいけないという問題意識から、平成30年にみんなでつくるまち条例を制定しています。
平成23年9月に現市長が就任して以来、地域づくり、地域の課題は地域で解決できる仕組みづくりに取り組んでいます。6つの小学校区ごとに拠点となる地域共生ステーションとまちづくり協議会の設置を進めています。平成29年12月には地域共生社会の実現に向けた厚生労働省のモデル事業を開始しています。市役所の縦割りの弊害を少なくするため、令和3年4月には市長直轄の組織として地域共生推進課を設置。小学校区ごとに地域共生担当職員を配置しました。
長久手市の重層的支援体制では、社会福祉協議会のCSW(コミュニティーソーシャルワーカー)が主に相談支援と参加支援を担い、市役所の地域共生担当が地域づくりに向けた支援を担っています。参加支援としては居場所兼相談窓口『Nジョイ』を設置しました。地域共生ステーションは小学校区単位の地域づくりの拠点となっています。多機関協働事業としては地域共生担当とCSWが中核機能として関係機関への伝達調整や地域の資源探しとなり、重層的支援会議につなげます。アウトリーチの機能も担っています。
課題としては、①多機関協働のケース数が伸びない、②高齢・介護以外のアウトリーチが不十分、③本人に病識がない、家族や近隣住民との人間関係が悪いなど支援に結びつけづらい要素がある、の3つを挙げています。解決策として、CSWの役割過多の解消、包括的支援情報連携システムの構築、③『地域の保健室』(気軽に相談できる場、ネットワークづくりで子育て世代とのつながり強化)の実施、④地域資源を活用し、開かれた居場所の運営を支援する事業の創設を進めているとのことです。
主な質疑
Q.CSWの配置状況や資格は。
A.社会福祉士で6小学校区中に5人配置している。地域づくりや地域の方たちとの信頼関係を作ったりしている。
Q.市の地域共生担当の役割、資格、具体的な任務は。
A.小学校区に1人ずつ配置。通常の事務職員。専門職であるCSWと行政とのパイプ役になったり、専門職が不得意な事務作業などを行っている。
Q.介護事業の生活支援コーディネーターの役割は。
A.CSWが兼務している。
Q.いつから社協にCSWを配置しているか。きっかけは。
A.平成26年度から。地域福祉計画策定に当たっての市民意識調査の中で何でも相談できる機関が欲しいという意見があった。最初は1人だったが重層的支援体制もモデル事業化にあたり委託に切り替えて人数を増やした。
Q.地域共生ステーションには常駐職員はいるか。
A.いない。イベントや相談窓口を設置する際に開けている。
Q.どのような場所に地域共生ステーションがあり、まちづくり協議会を設置しているか。
A.小学校区毎に設置したいと考えているが、現状では名古屋市に近い市街化された地域から。協議会も準備が整ったところから設置している。豊田市に近い里山地域は自治会加入率が比較的高いので、未だ設置していない。
Q.多機関協働に乗せる基準はあるか。
A.あった方が良いと考えているが現状では無い。モデル事業では相談支援機関から上がってくる事案を対象にしていた。社協を中核として事務局会議を実施しており、課題を分析し、適している事案を検討し、基準を作りたい。