学童保育の基準緩和 地方分権で問われる議員の資質

昨年(2018年)11月、学童保育の職員の配置や資格に関する基準が緩和されるということが大きく報道されました。

「学童保育の基準緩和検討 厚労省、職員配置や資格基準で」2018.10.17朝日新聞
「厚労省 学童保育、1人職員を容認 人材不足で基準緩和」2018.11.19毎日新聞

私はこの見出しを見て、あれっ?と思いました。実はその少し前の7月に厚生労働省の社会保障審議会児童部会の放課後児童対策に関する専門部会で、保育の質を重視した『総合的な放課後児童対策に向けて』中間報告が発表されていたからです。

厚生労働省が本当は守りたかった学童保育の「質」

そもそもの話は2013(平成25)年まで遡ります。社会保障・税一体改革により子ども・子育て支援の拡充が決定され、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育)も受け皿の一つと位置づけられました。その際、学童保育事業の設備や運営について基準が定められ、この基準を元に市町村が条例を定めることになりました。それからわずか5年で、この基準うちの【従うべき基準】が【参酌すべき基準】に、つまり市町村の実情に応じて柔軟に定められるようになったわけです。

この基準緩和は厚労省が積極的に進めたわけではありません。基準が厳しすぎるとして地方自治体から声が挙がり、内閣府の「地方分権改革有識者会議」の中で厚労省が強く見直しを求められた結果でした。最終的に要求を受け入れざるを得なかったわけです。

最終決断を迫られた11月19日の部会で、厚生労働省・濵谷浩樹子ども家庭局長は次のように説明しました。文字だけ見ても無念の思いが伝わってきます。

・質と量は車の両輪であり、質を蔑ろにすることは許されないとするのが当省の基本的な考え方である。
・質の確保と、地域の実情に応じた安全的・継続的な運営を両立する限界の案として、現行の「従うべき基準」の内容自体を維持した上で、参酌基準とする方法があるのではないかと考えている。

最終的には参酌化を受け入れるかわりに、施行後3年を目途として施行状況を検証し必要に応じて見直す「見直し条項」を内閣府に認めさせました。

『総合的な放課後児童対策に向けて』に込められた高い理念

それでは昨年7月に厚労省の社会保障審議会児童部会の放課後児童対策に関する専門部会でまとめられた中間報告『総合的な放課後児童対策に向けて』の内容はどのようなものだったのでしょうか。

まず冒頭に掲げられたのは「子どもたちの放課後生活の重要性とその理念」です。何よりも子どもの主体性や自己決定を尊重する点を大前提としています。

「安全に過ごしてくれさえすればよい」という親目線ではありません。つまり支援の対象は親よりも子どもです。

児童福祉法が改正される前は「指導員」と呼ばれていましたが「支援員」に改められました。学童保育を運営する立場からは、おそらく管理・指導するほうがよほど簡単だと思います。事故を起こさないことは大前提として、子どもの健やかな育ちを支援しなければいけないのです。そのためには支援員の十分な人数と知識・技術・体力が必要なのは言うまでもありません。

人材不足の根源は支援員の処遇であり財源の問題

自治体から支援員の確保が非常に難しいという声が挙がっています。それが今回の基準見直しの原因の一つです。支援員は高いレベルの専門性が求められる難しい仕事ですが、それに見合った待遇がされているかと言えば疑問があります。

実際に地方分権改革有識者会議提案募集検討専門部会の中でも、支援員の待遇が必ずしも良くないのではないか、という質問がされています。それに対し厚労省は「処遇改善は非常に重要な事項と考え、処遇改善にかかる補助金を交付しているが、地方自治体の補助申請がまだ足りていない状況もある」と説明しています。

この処遇改善に係る費用は国・県・市が3分の1ずつ負担することになっていますが、国が補助金を用意しても、市町村が負担を受け入れなければ、処遇改善はできないのです。

結局のところ、
財政状況が厳しい→支援員の処遇を改善できない→支援員をやりたい人が増えない→質の改善が図られない、というのが現在地です。

重責を担うことになった地方議会

学童保育の「質の確保」に当たっては、自治体の裁量の幅が広がりました。厚労省の定めた基準を参酌して自治体の条例で定めることになりますが、基準を見直す場合には条例を改正する必要があります。当然ながら議会の議決が必要です。また、質を確保・向上するために不可欠となる優秀な支援員を確保するためには、処遇の改善が急務です。国や県の補助を受けて処遇改善を図るためには予算に定めなければならず、こちらもやはり議会の議決が必要です。

学童保育の基準を定めるに当たり、国でどんな議論がなされてきたのか、どういった文脈の中で従うべき基準が参酌すべき基準になったのか、それらの背景を北本市に当てはめた場合、北本市の条例で定めた基準や、処遇改善を含めた学童保育に係る予算はどうあるべきなのか。こうしたことを踏まえた上で、議会が適切に判断をしていかなければなりません。

地方分権が進むということは、議会のレベルが市民生活に直結するということにほかなりません。あなたのまちの議員は大丈夫ですか?

※ 貼り付けた資料の出典はいずれも厚生労働省ホームページ