北本市の平成30年度一般会計補正予算第5号に計上されている約1億6千万円の農業振興対策業務経費について、大変重要な予算なので改めて指摘しておきたいと思います。
これは、北本市農業ふれあいセンター、いわゆる桜国屋を中心とした施設のリニューアル事業です。施設整備に先立ち、平成30年度中に「(仮)きたもと農家テラス(北本農業ふれあいセンター)リニューアル計画」が策定されています。
総額不明の大規模投資、目的はシティセールス?
このリニューアル計画は、桜国屋、さんた亭、両店舗前の広場、大型看板のリニューアルのほか、現在の施設の東側に大規模な体験農場やフラワーガーデンを整備しようとするものです。この壮大な計画については、こちらから見ることができます(北本市公式ホームページ)。
今回の補正予算額は約1億6千万円ですが、総額がいくらになるのか、毎年の維持管理費がどれくらい掛かるのかなど、資金面はほとんど明らかにされていません。
リニューアル計画に記されている「リニューアルの効果」を見ると、農家にとっては収入増につながるかもしれませんが、その他大勢の市民にとってどんなメリットがあるのかピンときません。目玉となる観光施設(そこまで魅力的とは思いませんが)を造り、市外から観光客を呼びたい、ということのようですが、各地にある同種の施設とどうやって差別化を図るのかもよく分かりません。
財源の「地方創生拠点整備交付金」とは?
財政的に厳しい状況にある北本市がこれだけの予算を、しかも補正予算に計上したのは、国から補助を受けられることになったためと考えられます。今回の補正予算案を見ると、6,330万9千円の地方創生拠点整備交付金が財源になっています。
地方創生拠点整備交付金とは、「地域経済の活性化という喫緊の課題に対応するため、地域の観光振興や住⺠所得の向上等の基盤となる先導的な施設整備等を⽀援」するための国の補助金です。平成30年度第二次補正予算で総額600億円が計上されました。
この交付金を受けるためには「地域再生計画」を作成し、内閣総理大臣の認定を受ける必要があります。さらに「地域再生計画」で実施する事業は、まち・ひと・しごと創生総合戦略(「北本市まち・ひと・しごと総合戦略」)に定められた事業である必要があります。
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」とは
まち・ひと・しごと創生の基本的な考え方は、『「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む好循環を確立するとともに、その好循環を支える「まち」に活力を取り戻す』というものです。北本市でも2016(平成28)年3月に「北本市まち・ひと・しごと総合戦略」を策定しました。
では、その総合戦略には、農業の振興や農業ふれあいセンターの活用について、どのように記載されているのでしょうか?
基本目標のⅣ「安定した雇用を創出する」の施策2として「地域産業の安定経営と活性化を導く支援制度の充実」とあり、ここにかろうじて主な取組み(例)として「地域ブランド化・6次産業化への支援」や「北本らしい農作物等のPR促進」が記載されている程度です。
一方のリニューアル計画には、リニューアルの効果として「ふれあいセンターの利用客・売上増、農家の収入増加・参画増加、高付加価値化」などが掲げられていますが、「安定した雇用の創出」という目的や効果は掲げられていません。「しごとを創る」ことよりも、「稼ぐ」ことや「集客」に主眼が置かれているように感じます。
地域再生計画の正当性
地方創生拠点整備交付金の交付を受けるためには、地域再生計画を策定する必要があります。地域再生計画には、数値目標や総事業費などを記載しなければなりません。これらが記載されていないリニューアル計画より、現実的かつ具体的で、重要な計画ではないかと思いますが、地域再生計画はパブリック・コメントを実施していません。
また、『地域再生計画認定申請マニュアル』には、地域再生計画の作成に当たり「地域の創意工夫をこらした自主的かつ自立的な取組を推進する観点から、特定非営利活動法人を始めとするNPO、地域住民、関係団体、民間団体、民間事業者を通じて、地域のニーズを十分把握し、PFI制度等の活用も含めた民間のノウハウ、資金等の活用促進を検討した上で、反映するように努めることが望まれます。」と記載されています。
北本市は、こうした手続きを一体いつどのような形で行ったのでしょうか?地域再生計画の作成に当たり、果たして十分な検討がなされてきたのでしょうか?
指定管理者制度で市の責任とコストを転嫁
農業ふれあいセンターの運営は、これまでは業務委託で行っていましたが、リニューアル計画によると、リニューアル後は指定管理者になるようです。
多様な協働によるALL北本での運営とありますが、その取りまとめを任されるのは指定管理者で、ALL北本の括りの中に市は入っていません。民間のノウハウと言えば聞こえが良いですが、今や指定管理者制度は行政の責任を外部化し、コストを最小限にするための制度と化しています。残念ながら、地域住民や地元企業と一緒に知恵を出し、汗をかき、地域を再生しようという意気込みが感じられません。
地域再生事業として行う以上は、数値目標を管理し、達成しなければなりません。しかし、その責任を負うのは、指定管理者ということになりそうです。目標達成のためにもっと予算が必要だと指定管理者が求めても、財政状況が厳しい、お金がないと、市に要求を突っぱねられる可能性もあります。単なる公の施設ではなく地域再生を先導する施設ということを考えても、その運営は簡単ではないはずです。
まとめ
農業ふれあいセンターのリニューアルは、市の単独事業では到底できなかったことでしょう。市の財源不足を補うため=国の交付金事業を活用するために、強引に地域再生のスキームに合わせたと見るのが妥当です。交付金の活用により初期投資が少なく済んでも、厳しい数値目標を達成するため、維持管理費や関連するソフト事業費がかさみ、市の財政に大きな負担となることは明白です。
この補正予算案に対し、現職の市議会議員がどのような質問をするか、どのような議決をするかは、来る市議会議員選挙に向けても重要な判断材料になるでしょう。北本市議会の見識が試されると思います。