ふるさと納税は誰トク(損)か? その4

8月2日にはふるさと納税(寄附)額と合わせて、令和元年度課税におけるふるさと納税に係る住民税控除額が公表されました。

北本市民がふるさと納税をすれば、本来北本市に納める個人市民税や埼玉県に納める個人県民税が控除されます。ふるさと納税によって全国の都道府県や市町村で控除された個人住民税の総額は約3,265億円にも上りました(令和元年度課税分)。ふるさと納税による寄附金控除額が多かった市町村(上位20団体)と埼玉県内の市町村の実績は下表のとおりです。

ふるさと納税に関する現況調査結果(令和元年度実施)総務省

総務省の資料を基に桜井が作成

北本市におけるふるさと納税に係る個人市民税の税額控除額は約6,559万円です。一方で平成30年度中のふるさと納税寄附受入額は約1億6,029万円ですから、差し引きすると約9,470万円のプラスになっています。募集に要した経費約4,756万円を差し引いてもプラスでしたから、北本市はふるさと納税制度による恩恵を受けていることになります。

ところで隣の桶川市は、平成30年度のふるさと納税寄附の受入額が約585万円で、ふるさと納税に係る個人市民税税額控除額は約8,769万円でした。では、桶川市がふるさと納税制度によって約8千万円のマイナスになったのかというと、そう単純な話ではありません。

みなさんは、地方交付税制度をご存知でしょうか?詳しい解説は総務省のホームページ(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouhu.html)を見ていただきたいところですが、簡単に言うと全ての地方公共団体の財源を保障する財源調整制度です。基準財政需要額と基準財政収入額を比較して、基準財政収入額の方が少ない場合には地方交付税が交付されます。つまり、税収が少ない市町村でも地方交付税が交付されることで行政サービスの水準を維持できるようになっています。

地方交付税制度の概要(総務省)

この基準財政収入額を計算する際に、ふるさと納税の寄附金控除額分が減額されます。つまり、ふるさと納税で失った税収の一部(約75%)は地方交付税として補てんされるということです。なお、基準財政収入額が基準財政需要額を上回る自治体(令和元年度は都道府県では東京都のみ、市町村ではと埼玉県内の戸田市、和光市など85団体)には地方交付税は交付されません。

では地方交付税の原資は何でしょうか?基本は国税の一定割合です。しかしこれだけでは原資が不足するため、臨時財政対策債を発行(つまりは借金)できることになっています。結局ふるさと納税のコストのほとんどは、将来世代も含めた国民全体で広く負担しているということです。

気づかないうちに国民全体で負担させられ、将来世代にも負担を負わせて、ごく一部の地方自治体や業者、富裕層が得をする制度。それがふるさと納税制度です。

お世話になった(育ててもらった)自治体や応援したい自治体に納税できるようするという本来の趣旨に基づけば、何も返礼品は要らないはずですし、返礼品をなくすだけでふるさと納税は沈静化するはずです。

ふるさと納税で格差を是正したり、地方の歳入を増やしたりするというのは問題のすり替えでしかありません。都市部と地方の税収格差が問題ならば、国からの税源移譲や税制改正、地方交付税制度の見直しにより解消すべきです。

ふるさと納税制度はできれば廃止していただきたいところですが、ここまで広がってしまうと直ちに廃止というわけにはいかないでしょう。本来に趣旨に見合った形に是正されるよう、北本市としても市長会を通じて国に要望をしていくべきではないかと思います。