11月2日(土)北本宵まつりの日に伊奈町の県民活動総合センターにおいて第39回全国クレサラ・生活再建問題被害者交流集会 in 埼玉が開催されました。交流集会の分科会のひとつで『反貧困の地方財政』~自己責任社会を地方から転換しよう!~というテーマでシンポジウムが行われ、パネリストの一人としてわたしもお話しをさせていただきました。
パネルディスカッションに先立ち、埼玉大学大学院の高端正幸准教授が「自己責任社会を転換する地方財政戦略」というテーマで講演を行いました。
さまざまなデータが示すとおり、日本は世界的に見ても極めて社会保障が貧弱な「自己責任社会」です。我が国は、子どもの保育・教育や住宅の購入、老後への備えに自らの所得や貯蓄により賄うことを原則とした社会を創ってきましたが、雇用の非正規化が進むなどにより世帯の可処分所得は大きく減少し、自己責任で生活を成り立たせることが難しくなっています。
自己責任で生活を成り立たせるためには、市場でサービスを購入する必要があります。所得や貯蓄がなく、生きていく上で必要なサービスを購入できなくなれば、生きていけません。現状では、人間らしく生きる権利が保障されていないということです。皆が税を出し合い、生きていくうえで誰もが必要とするサービスが住民に等しく提供される社会への転換が必要なのではないでしょうか。
そもそも支え合うために社会はあります。財政という「共同の財布」をつうじた「分かち合い」「頼り合い」の強化が必要であり、それを国だけに任せず地域レベルでも進めていこうというのが高端さんの講演の概要です。
関心のある方は、高端さんや今回一緒にパネリストを務めた藤田孝典さんの著書『福祉は誰のために ソーシャルワークの未来図』(2019 へるす出版)をお読みいただければと思います。
パネルディスカッションでは、滑川町総務政策課長の大塚さんから滑川町の給食費無償化の取組についてお話をいただきました。滑川町では平成23年度から給食費の無償化を実施しています。小・中学校だけでなく、幼稚園・保育園も対象です。町民であれば、町外の学校等に通っていても補助金が交付されます。親の所得や税の納付状況も関係ありません。これが、滑川町長が出した「平等・公平」の答えであり、まさに生きていく上での必要を財政で満たしたということになります。
一方の北本市では、現王園前市長が平成27年の市長選挙に中学校の給食無償化を公約に掲げて当選しましたが、任期中に実現することはできませんでした。財政状況が厳しい中で、より少ない予算で実施でき、近隣市町でも実施が進んでいる「高校生までの子ども医療費無料化」を優先した形です(これもまた市民が生きていく上での必要を税により賄う=財政で満たす取組と言えます)。
話しを戻します。滑川町のように地域が独自で必要の満たし合いを進める自治体は増加する傾向にありますが、財政の「やりくり」で実現しているのが現状です。税収に限りがあると考える以上、何かを実現すれば、何かを我慢しなければできません。新たな行政サービスを実現すれば、別の行政サービスの量が減ったり質が落ちたりする可能性が高いわけです。ムダの削減、事務の効率化は、どの役所でも20年以上に渡り取り組んでおり、もはやそれで大きな財源を生み出すことはできません。
税の負担を増やすことで私たち住民の「必要」を満たす分野を拡げることで自己責任を軽減し、安心して暮らせる社会を創る。これも有力な選択肢だと思います。
今回のパネルディスカッションでは、北本市における超過課税のシミュレーションを提示しました。例えば、北本市が平成24年度以降実施している都市計画税の減税を中止すれば(税率0.20%→0.25%)約1億円の増収が見込めます。また、個人市民税の所得割の税率を6.0%から6.6%へ一割引き上げれば、約3億7千万円の増収が見込めます。両方ともやれば約4億7千万円の増収です。
これだけあれば、小中学校の給食費の無料化(合わせて約2億3千万円)だけでなく、介護サービスの自己負担(通常は1割)の半減(約4億2千万円)を実現させることができます。
これはあくまでシミュレーションであり、こうすべきという提案ではありません。こういう行政サービスを実現するには、どのくらいのコストが掛かり、そのためには住民がどれくらいの負担をしなければならないかという、頭の体操です。こうしたシミュレーションを色々とやってみることで、自ら負担している税の使いみちを考え、市政への関心を高めることにもつながります。
財政の原則として言われる「入るを量りて出ずるを制す」にとらわれず、地方自治体に認められている課税自主権を活用して「受益(行政サービスの質や量)」と「負担(税率・税額・使用料等)」をセットで考える、自分の住むまちの税や行政サービスは自分たちで決めることがとても重要だと思います。
もちろん、国による地方税財政制度の改善(ふるさと納税の廃止、税源偏在の是正、税源移譲など)は、言うまでもなく必要です。しかし、国に要望して待っていてもいつ実現するか分かりませんし、実現する保証もありません。
地域でできることをやっていく、自分たちの地域のことは自分たちで決める。こうした議論を進めることこそが地方自治であり、地方自治が民主主義の学校と言われる所以ではないかと思います。
※ わたしがパネルディスカッションで使用した資料は、こちらからダウンロードできます。 20191102 sakurai.pdf