保護司になりました。

保護司の委嘱

令和5年5月25日付けで法務大臣から保護司の委嘱を受けました。私と同じ谷足自治会に長らく保護司を務めていた方がおられましたが、定年で辞めなければならず後任を探しており、市議会議員である私のところに相談に来られました。

保護司は、次に掲げるすべての条件を具備していなければいけません(保護司法第3条)

  • 人格及び行動について、社会的信望を有すること
  • 職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること
  • 生活が安定していること
  • 健康で活動力を有すること

特に「時間的余裕を有すること」が難しく、会社勤めをしている人や事業をやっている人では困難です。

保護司のことを調べているうちに、議員をやりながら保護司をやっている人がたくさんいることがわかりました。確かに専業議員であれば会社勤めをしている人や事業をやっている人よりは時間的余裕があります(融通が利きます)。それならばということで、自ら引き受けることにしました。

保護司の仕事とは

保護司は、保護観察所の保護観察官と協働して活動を行います。保護司の仕事は大きく3つです。

まずは『生活環境の調整』です。矯正施設(刑務所や少年院)に収容されている人が「釈放されたとき」に更生に適した環境で生活できるよう、収容中から帰住先の調査や引受人との話し合い、就職先等の調整を行うなどし、必要な受入体制を整えるなどの活動を行います。収容中に面接に行くこともあります。ここで担当した人が仮釈放された場合には、保護観察も続けて担当することが多いようです。

次に『保護観察』です。保護観察処分となった人(少年院の仮退院、刑務所の仮釈放を含む)について月2回程度の面談を行い遵守事項が守られているかなどを確認し、毎月保護観察官に報告します。

最後に『犯罪予防活動』です。犯罪や非行の発生を未然に防ぐことを目的として、様々な犯罪予防活動を実施します。また、社会を明るくする運動など、地方公共団体、学校等教育機関、福祉関係機関、警察関係者など、地域における様々な機関・団体と連携して、更生保護の啓発活動を行います。

(参考)法務省保護観察所
https://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00040.html

保護司はボランティア

保護司は非常勤の国家公務員ではありますが、無給であり、ボランティアです。しかし実際の活動にはお金が掛かることも多々あります。

保護司には報酬は支払われませんが、実費弁償金が支払われます。保護観察事件を担当し、保護観察経過報告書を提出した場合には、接触回数や活動の内容に応じて「補導費」が支給されます。また、生活環境調査事件を担当し、生活環境調整報告書等を提出した場合や、収容中に対象者に面接に行き面接状況報告書を提出した場合などには「生活環境調整費」が支給されます。

ボランティアではありますが、秘密保持と情報管理に関しては厳しく定められています。私は保護司の仕事をはじめるに当たり、新たに鍵付きのキャビネットを購入し、書類を持ち出さないようにするつもりです。

保護司のリスク

平成22年7月に茨城県の保護司の自宅が担当する保護観察対象者の放火によって全焼する不幸な事件が発生し、全国の保護司に大きな衝撃を与えるとともに、保護司活動に対する不安が高まりました。面談する場所は基本的に保護司の自宅になるので、対象者との関係が悪化すればこのような事件も起こり得ます。

しかしこの事件をきっかけに見直され、自宅外でも面談ができるなど地域の保護司活動の拠点となる「更生保護サポートセンター」の設置が進められたり、保護司が保護観察対象者等から受けた物的損害等に対する補償制度が創設されるなどの改善が図られているようです。

議員は保護司になれるの?

保護司は、本来、地域の代表として選ばれた社会奉仕者、民間篤志家ですが、法務大臣の委嘱を受け、保護観察の実施等の刑事政策上極めて重要な職務に従事し、国の行政の一翼を担っていることから、その身分は非常勤の国家公務員とされています。

しかし、国家公務員法には「保護司」という言葉は出てきません。では、どのように規定されているのでしょうか。

国家公務員倫理法第2条第1項


この法律において、「職員」とは、国家公務員法第二条第二項に規定する一般職に属する国家公務員(委員、顧問若しくは参与の職にある者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者で常勤を要しないもの(同法第六十条の二第一項に規定する短時間勤務の官職を占める者を除く。)を除く。)をいう。

これにより、カッコ内の者は国家公務員ではあるがこの法律上の職員ではないことになります。この詳細は人事院規則22-0(倫理法の適用を受けない非常勤職員)に規定されています。

倫理法第二条第一項の委員、顧問又は参与の職に準ずる職にある者は、次に掲げる者とする。
一~五(略)
六 保護司の官職を占める者

また、国家公務員法第102条には次のような規定があります。

(政治的行為の制限)
第百二条 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

政治的行為について規定した人事院規則14-7(政治的行為)には次のとおり定められています。

(適用の範囲)
1 法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定は、臨時的任用として勤務する者、条件付任用期間の者、休暇、休職又は停職中の者及びその他理由のいかんを問わず一時的に勤務しない者をも含む全ての一般職に属する職員に適用する。ただし、顧問、参与、委員その他人事院の指定するこれらと同様な諮問的な非常勤の職員(法第六十条の二第一項に規定する短時間勤務の官職を占める職員を除く。)が他の法令に規定する禁止又は制限に触れることなしにする行為には適用しない。

この但し書きの「諮問的な非常勤職員」については、人事院指令14-3に次のように定められています。

1 人事院は、別に指令で定めるもののほか、人事院規則一四―七(政治的行為)第一項ただし書に定める諮問的な非常勤の職員として、諮問的な非常勤の官職で、議長、会長、副会長、議員、院長、会員、評議員、参事、客員研究官、幹事、専門調査員、調査員、審査員、報告員及び観測員の名称を有するものを占める職員並びに諮問的な非常勤の統計調査員、仲介員、保護司及び参与員の官職を占める職員を指定する。

以上のように、保護司は非常勤の国家公務員として定められています。

次に、議員が保護司になれることについて見てみます。公職選挙法第89条第1項には次のように規定されています。

(公務員の立候補制限)
第八十九条 国若しくは地方公共団体の公務員(略)は、在職中、公職の候補者となることができない。ただし、次の各号に掲げる公務員は、この限りでない。
三 専務として委員、顧問、参与、嘱託員その他これらに準ずる職にある者で臨時又は非常勤のものにつき、政令で指定するもの

そして、政令(公職選挙法施行令)には次のように規定されています。

(立候補できる公務員)
第九十条
2 法第八十九条第一項第三号の規定によつて、在職中、公職の候補者となることができる者は、(略)臨時又は非常勤の国若しくは地方公共団体の公務員(略)で次に掲げる者とする。
二 顧問、参与、会長、副会長、会員、評議員、専門調査員、審査員、報告員及び観測員の名称を有する職にある者並びに統計調査員、仲介員、保護司及び参与員の職にある者

以上のとおり、保護司は公職の候補者になれることが規定されています。

一方で、公職選挙法第136条の2第1項の規定は保護司であっても適用されますので、その地位を利用した選挙運動を行うことはできません。

(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)
第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員

具体的には、対象者に対して特定の候補者に投票するよう働きかけたり、保護司会の場などで選挙運動を行うことは、公職選挙法違反となるおそれがあります。

【参考】『改訂 保護司のためのQ&A』更生保護法人日本更生保護協会