Ⅰ.ごみ処理施設整備費の相場
ごみ処理施設の整備費が安いか高いかを判断するために、まずは相場を知る必要があります。
ごみ処理施設の整備費の相場は、『都市と廃棄物』(環境産業新聞社)という雑誌に掲載されている「熱回収施設実勢価格動向」が参考になります。ごみを焼却する際に熱エネルギーを回収して売電したり利活用したりするので、焼却施設と言わずに熱回収施設と言います。
平成26年度から平成30年度の実勢価格は次のとおりです。年度によって波がありますが、日量100トン以上なら1トン当たり8千万円程度、それよりも小さい規模で日量50トン以上なら1トン当たり1億円以上、日量50トン未満なら1トン当たり1.5億円程度となっています。
一般論として、施設の規模が大きくなるほど日量1トン当たりの整備費用は安くなり、スケールメリットが働いていることが分かります。
全体として整備費が高騰傾向にある要因としては、東京オリンピックに向けて建築土木工事の需要が増え、資材費が高くなっていること、働き方改革の影響等で人件費が高くなっていること、などが言われています。
Ⅱ.鴻巣行田北本環境資源組合の提示額
(1)施設整備基本計画における概算事業費
鴻巣行田北本環境資源組合(以下、資源組合)では、平成29年2月に策定した『鴻巣行田北本環境資源組合施設整備基本計画』において、概算事業費(税抜き)を公表しています。この時は、日量249トンで約200億円(1トン当たり約8千万円)でした。これは税抜きなので、税金分を考慮すると相場より若干高めとなっていますが、あくまで概算事業費である(実際に入札すればこれよりも安くなる可能性が高い)ことから、妥当な額だと思います。
この額を3市で負担します。資源組合では整備費を人口割により負担することになっており、北本市の人口は3市合計の約4分の1だったので、熱回収施設の整備費の負担額は約50億円となります。
※この時の概算事業費は税抜きです。消費税等を10%で計算すれば、3市合計で約220億円、北本市分は約55億円となります。
(2)令和元年10月23日時点の概算事業費
白紙解消の直前に資源組合から示された概算事業費は、下の写真のとおりです。
ここでは本体施設費は331.7億円(税込み)となっています。この金額には、熱回収施設だけでなく、不燃・粗大ごみ処理施設やプラスチック資源化施設、ストックヤードが含まれていますが、その内訳は公表されていません。施設整備基本計画では、整備費合計約249億円に対し、熱回収施設は約200億円で約80.3%を占めていました(いずれも税抜き)。本体施設のうち熱回収施設の整備費を80.3%で計算すると、331.7億円×0.803=約266億円となります(いずれも税込み)。このうち北本市の負担分を4分の1とすると、約66.5億円となります。
なお、施設規模については(1)では日量249トンとしていましたが、人口推計を見直した結果、日量239トンに変更しています。よって、日量1トン当たりの整備費は、約1.1億円(税抜きで約1億円)です。相場では日量100トン以上の規模ならば1トン当たり8千万円なので、資源組合の概算事業費は相場よりも2割以上割高になっています。
建設候補地の地盤が低いため土地の造成が必要で、その費用が整備費を押し上げているようです(内訳が示されていないため詳細は不明です)。また、この他に、余熱利用施設の整備費(8~11.4億円)、特別高圧線の負担金(約8.9億円)、周辺道路・水路整備費(12.7億円)などが必要になるとされ、概算事業費全体を大きく押し上げることとなっていました。
Ⅲ.市単独による整備
(1)資源組合による検証結果
資源組合が平成28年2月に公表した『広域処理に向けた基礎調査(広域化方針)報告書』には、第7章として「広域化による効果の検証」がされています。ここでは、3市で広域処理した場合と3市が単独で処理した場合の経費、環境負荷、エネルギー利用効果について検証されています。この中で、建設費について次のように検証されています。ここでは北本市が単独で熱回収施設を整備した場合の整備費は、約61億円(税抜き)とされています。ただし、Ⅰで見たとおり、平成29年度以降は整備費は高騰傾向にあります。
(2)現時点での試算
北本市が単独で整備する場合、北本市における焼却処理量は約1万5千トンで、日量にすると40トン程度です。災害に備えて余裕を持ったとしても50トン以下でしょう。当然、熱回収施設の整備費は割高になります。Ⅰで見たとおり、日量50~100トン規模ならば1トン当たり1億円が相場ですが、50トン未満だと1トン当たり約1.5億円に跳ね上がります。
北本市の施設規模を日量50トンとした場合、その整備費はざっと50~75億円(税込み)ということになります。さらに精緻な試算をするためには、最近整備された全国の熱回収施設の整備費を個別に調査するとともに、北本市の個別事情(特に建設場所)も考慮する必要があると思います。
Ⅳ.まとめ
広域処理による効果について、一般論としては『広域処理に向けた基礎調査(広域化方針)報告書』(H28.2鴻巣行田北本環境資源組合)のP.66~80にあるとおり、広域処理の方がメリットが大きいと思います。
ただし、郷地・安養寺地区に建設した場合、土地造成費、余熱利用施設整備費、特別高圧線負担金、周辺道路・水路整備費などが必要となり、整備費を大きく押し上げる結果、本当に単独よりも安いのか怪しくなってきます。
もちろん北本市が単独で整備するとしても、これらの諸費用が掛かる可能性がありますので、より詳細に調査しないとどちらが費用面で優位なのかは分かりません。熱回収施設だけでなく、不燃・粗大ごみ処理施設やプラスチック資源化施設も含めて検討しなければならず、試算は困難を極めるでしょう。
市議会でも、建設経済常任委員会で協議会を開き、新ごみ処理施設整備について検討をすることになりました。執行部に任せず独自に調査・検証を進め、適確な判断を下せるように準備を進めてまいります。
Ⅴ.参考資料
これは、令和2年8月27日の北本市議会全員協議会で提供された資料です。下のリンクからダウンロードできます。
「01 今後のごみ処理施設に関する枠組み等のメリット・デメリット」(PDF形式)
ご覧いただければ分かりますが、メリット・デメリットの分析、特に費用面に関しては粗すぎて検討資料として不十分です(これは公開用で、実際にはさらに詳細に試算・分析しているはずだと信じています)。
特に「3 北本市のみ(単独)」については、郷地・安養寺地区に建設することによる費用増を考慮しておらず、一般論にとどまっており、全く参考になりません。これでは市民に納得してもらうことはできないでしょう。