令和4年12月定例会に提案された「議案第63号 北本市個人情報の保護に関する法律施行条例の制定について」が否決された件について説明します。
北本市個人情報の保護に関する法律施行条例の制定について
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/19/giann202263.pdf
提案の内容
従前、地方自治体ごとに条例で規定していた個人情報保護について、「個人情報の保護に関する法律」が制定され、全国一律の制度となることから、北本市個人情報保護条例を廃止するとともに、個人情報保護法の施行に関し必要な事項を定めるため、法施行条例を制定することとなりました。このため、全国の市町村で同様の議案が提案されています。
基本的なことは法律に定められているため、新しい条例で規定する事項は旧条例よりも大幅に少なくなります。
北本市が新条例に定める事項は、国の制度と異なる「開示請求書等の記載事項」「開示決定等の期限(及びその特例)」「開示請求に係る手数料」。これに加え、附属機関(諮問機関)である北本市情報公開・個人情報保護審査会と北本市情報公開・個人情報運営審議会を廃止することが提案されました。
提案の問題点
条例案を読み込み、国から示された様々な資料や書籍を参考に、私が感じた主な問題点は次のとおりでした。
※参考 個人情報保護委員会のホームページ
- 条例の廃止や個人情報保護に係る2つの附属機関を廃止することについて、附属機関に意見を聴いているか。そもそも附属機関を廃止することに問題はないか。
- 条例で規定することができる「条例要配慮個人情報」について、庁内においてきちんと議論をしたか。また、附属機関に意見を聴いたか。
- 法律では「個人情報ファイル簿」を作成・公表することとなっているが、旧条例で規定していた同種の「個人情報登録簿」の取扱いはどうなるか。
◆解説
- について 北本市は個人情報保護に関する附属機関(市長が専門家や市民の意見を聴くための諮問機関)として、情報公開・個人情報保護審査会と情報公開・個人情報保護運営審議会を設置していましたが、この2つを廃止する案となっています。個人情報保護に係る審査会の役割は国が設置する審査会に移行しますが、個人情報保護法第129条の規定により引き続き附属機関(運営審議会)を置くことは可能です。また、情報公開に関しては個人情報保護法改正の影響はなく、廃止する理由がありません。これらの附属機関を廃止することは、行政をチェックする機能を著しく低下させるものであり、慎重に検討する必要があります。
- について 「要配慮個人情報」とは、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する個人情報です(法第2条第2項第3号)。人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪歴などが該当します。一方で「LGBTに関する事項」「生活保護の受給」「一定の地域の出身である事実」などは要配慮個人情報に含まれておらず、これらを要配慮個人情報とするには条例により規定する必要があります(『個人情報保護制度の見直しに関する最終報告』40頁)。どのような個人情報が要配慮個人情報に該当するか(該当させるべきか)について、慎重に検討する必要があります。※要配慮個人情報が漏えい等した場合には、国の個人情報保護委員会に報告の上、本人に通知しなければなりません。
- について 個人情報ファイル簿とは、個人情報ファイルの内容を広く住民に知らせるために作成・公表が義務付けられた、個人情報ファイルの目録です。1000人に満たない個人情報ファイルは、ファイル簿に掲載する必要がありません。一方で、旧条例では同種の「個人情報登録簿」を作成し、公表することとしていました。こちらは件数に関わらず掲載し、公表しています。1000人未満のファイルを公表しないことは、公開の後退につながるものです。法第75条第5項の規定により、条例に定めることにより、個人情報ファイル簿とは別の個人情報の保有の状況に関する事項を記載した帳簿を作成し、公表することも可能です。
条例要配慮個人情報(個人情報保護法第60条第5項)
この章において「条例要配慮個人情報」とは、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人が保有する個人情報(要配慮個人情報を除く。)のうち、地域の特性その他の事情に応じて、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして地方公共団体が条例で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
勉強会の開催(12月1日)
個人情報保護法及び施行条例案については、国の個人情報保護審査会からガイドラインや事務対応ガイド、Q&Aなどが示されているほか、参考書籍なども出版されていましたが、参考資料の分量は膨大で、容易に理解できるものではありませんでした。
各会派の議員は議案調査において執行部から説明を受けていたものの、執行部からの説明は基本的に必要最小限であり、執行部にとって都合の悪い情報は議員が尋ねないと答えないものです。
そこで有志による勉強会を開き、私が調べた範囲内で今後の審査において特に留意しなければならないことを説明しました。この説明会には全会派から参加者がありました。
議案質疑(12月2日)
本会議での議案質疑は、私だけが行いました。主な内容は次のとおりです。
Q.審査会・運営審議会の廃止について附属機関に意見を聴いたか。その結果は。
A.審査会・運営審議会の廃止について、概ね妥当であるとの意見をいただいている。←この時点で正式な答申は出ていない。
Q.LGBTや生活保護の受給に関することなどを条例要配慮個人情報として規定することについて、運営審議会や庁内においてどのような議論がなされたか。
A.運営審議会では特に議論がなかった。庁内では法規審査会のほか、関係部局と議論を重ねてきた。LGBTに関する事項は、改正後の法第2条第3項に網羅されている。→12月9日の本会議で「北本市特有の事情による要配慮個人情報は想定されないため、条例要配慮個人情報は規定しないこととした。」に答弁を修正。
Q.個人情報登録簿の今後の取扱いは。廃止することで公開の後退につながらないか。
A.個人情報登録簿は廃止するが、これまでの内容が網羅されるよう個人情報ファイル簿を作成し、管理する。本市の個人情報保護制度が後退することのないように徹底する。
総務文教常任委員会での審査(12月7日)
議案質疑を踏まえ、総務文教委員会において審査を行いました(私は総務文教委員会の委員ではありません)。総務常任委員会での主な質疑は、次のとおりです。
Q.LGBTに関する個人情報等について、条例要配慮個人情報(法60条の5)として規定しない理由は。
A.パートナーシップ制度は全国に広がっている。地域独自の特性の配慮事項には当たらないと判断した。
Q.条例要配慮個人情報の設定について、附属機関で議論したか。
A.附属機関は現条例に関して審議する機関であるため、新条例に関する内容は諮問事項に当たらない。
Q.個人情報ファイル簿と個人情報登録簿の違いは。
A.個人情報ファイル簿は1000人分以上のまとまった個人情報について作成する。登録簿とファイル簿の内容の違いとして一方にだけ記載される項目は、ファイル簿には記録情報の提供先、開示請求を受ける組織名等があり、登録簿には事業開始・終了日、記録の形態、保存年限等がある。
Q.1000人未満のファイルについては市民が知ることができないようにならないか。
A.少数のファイルは属性によりまとめるなどして、漏れがないようにする。個人情報登録簿から後退のないようにしたい。
Q.附属機関から正式な答申を受けているか。
A.令和4年10月25日に情報公開・個人情報保護運営審議会に諮問し、附帯意見があったものの異議なし審議を終了したが、答申については調整中で12月8日までにまとめる予定である。→12月9日付けで答申されたことを後日確認
委員会の審査の結果、賛成者はなく、否決すべきものと決定されました。
本会議での討論・採決(12月20日)
本会議では、委員長に対する質疑の後、保角議員(公明党)、中村議員(日本共産党)、岡村議員(啓和会)、桜井の4人が討論を行いました。諮問機関の答申前に提案したことや、パブコメを実施していないことなどを批判するもので、いずれも原案に対し反対する討論でした。
採決の結果、賛成ゼロ(今関議員は欠席)により否決されました。
桜井の反対討論(要旨)
- 現条例の廃止について諮問機関(情報公開・個人情報保護運営審議会)に諮問したにも関わらず、答申が出る前に条例を提案したのは諮問機関の軽視であり遺憾。諮問機関を軽視する風潮がある中で、引き続き有識者や市民に意見を聴く場を確保することは重要で、とりわけ運営審議会を廃止することは不適切である。
- LGBT、生活保護の受給、一定の地域の出身である事実等は、要配慮個人情報には含まれていないが、条例要配慮個人情報とすべきかどうかについて十分な議論がなされていない(執行部の認識に誤りがあった)。運営審議会に意見を聴かないとした判断も適切ではない。運営審議会に意見を聴き、引き続き検討すべき。
- 個人情報登録簿は個人情報ファイル簿に移行されるが、対象外となる1000件未満のリストについて属性により他のリストとまとめれば、事務処理が煩雑となり、かえって混乱を来す。登録簿やファイル簿の在り方について精査すべき。
- 以上のとおり、本条例案は執行部及び諮問機関において十分な検討が尽くされたとは言えず、可決できる状況にない。
今後に向けて
今議会では否決されましたが、改正個人情報保護法は令和5年4月1日に施行となるため、今年度中に北本市の個人情報保護条例を廃止し、法律施行条例を制定する必要があります。
個人的には、今回の条例案から諮問機関の廃止に関する部分を削除し(諮問機関は存続させる)再度提案し、条例要配慮個人情報については再度慎重に検討すべきと考えます。いずれにしても、執行部からの提案を待ちたいと思います。