新人市町村議員向け【税条例改正の審査に当たって】

私は市議になる前は埼玉県職員をしており、税務課において税制改正の担当をしていたことがあります。県における税制改正(条例改正)のほとんどは国が決めたことに従って改正する作業にすぎませんが、改正は多岐に渡り担当職員にとっても難儀な作業です。

税条例を改正する議案を審査する議員にとっても、技術的にもっとも審査が難しい議案ではないかと思いますので、私なりにどのように審査に当たっているか解説させていただきます。

税制改正・税条例改正の流れ

毎年度の税制の改正は、業界団体などからの要望が各省庁に提出され、税制調査会において議論され、大綱という形でまとめられます。この大綱を元に各種法令が改正され、この改正に伴って地方自治体の条例の改正が必要になるという流れです。

税制が好きな方は税制改正要望から追ってみるのも面白いですが(どの議員がどんな業界とつながっているか知ることができます)、これはかなり大変な作業です。最低限抑えておかなければいけないのは、大綱からです。

税制調査会と大綱は、政府によるものと与党によるものがありますが、実質的な力を持っているのは与党です。大綱は政府の大綱と与党の大綱で大差はありませんが、与党のものの方が若干詳しく書いてあります。

私がチェックしているのは、例年12月中旬に発表される与党税制改正大綱、年末の閣議決定後に発表される政府の税制改正大綱(大綱は100頁超ですが概要版が合わせて公開されます)、1月に総務省から通知される「令和○年度地方税制改正・地方税務行政の運営に当たっての留意事項等について」(ここまでは改正の内容を把握するもの)、そして法律や政省令の新旧対照表です(これは法令上の具体的な改正場所を把握するもの)。

実際に税務行政に携わっている人は、政府が公開する資料のほかに、実務的な解説書を参考にしています。ぎょうせいが発行している月刊『税』では5月号と6月号で詳しく解説しています。ここまで読み込んでおけば十分だと思います(職員と対等に話せるレベル)。

参考資料【リンク】

地方税に関する資料は総務省のホームページに掲載されています。
(新旧対照表、政府税制改正大綱・概要)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/ichiran04.html

自民党の税制改正大綱は自民党のホームページに掲載されています。
https://www.jimin.jp/news/policy/204960.html

株式会社ぎょうせい(月刊『税』)
https://shop.gyosei.jp/magazine

実際の審査に当たって

毎年度の税制改正は、当該年度がはじまる直前の3月下旬に国会において関係する法律が成立します。改正の中には年度当初(4月1日)から施行されるものもあれば、数年後に施行されるものもあります。

年度当初から施行される内容で、市町村の税条例を改正する必要があるものもあります。しかしながら市議会を開き、議決を得るには時間がありません。そこでほとんどの自治体で首長が専決処分を行い、年度開始後最初の議会において議会の承認を得る手続きを行います。

4月に統一地方選挙があった場合、最初の定例会(通常は6月)よりも前に議長を決めたりするための臨時会が開かれますが、この臨時会において専決処分の承認の議案が提案されます。すでに施行しているものとはいえ、議会の責任としてきちんと審査をしなければなりませんが、新人議員にとっては難解すぎる条例改正です。最低限「どのような改正で、市民にどのような影響があるのか」ということは確認しておくべきだと思います。

  • 改正の内容 ←事前に自分で調べ、審査で確認する。
  • 改正の背景(どのような理由で改正されたか) ←同上
  • 改正によってどのような影響があるか(件数、人数、影響額など) ←自分では分からないので審査で確認する。
  • 改正による懸念事項 ←審査で確認したことを踏まえて自分なりに考えて執行部にぶつける。

おまけ

市町村議会の審査において、本来改正すべきこと(法令が改正されたことに伴って市町村条例の改正をしなければならないこと)が漏れなく改正されているかを確認すべきとも思いますが、実際にはほぼ不可能だと思います。私でも自信がありません。まずは改正された内容(提案された内容)について審査するように心がけましょう。