西後保護地区の雑木林を守る請願は不採択に

令和5年9月定例会に「西後(にしうしろ)保護地区周辺の緑地の保全を求める請願」が提出されました。請願者は白川容子さん他921人で、私が紹介議員をつとめました。

この請願の審査は建設経済常任委員会で審査され、全員反対(工藤委員・毛呂委員は欠席)で不採択とすべきものと決定された後、本会議においても賛成少数で否決されました。

【賛成者】金森、毛呂、工藤、大嶋桜井、湯沢、中村、今関(8人)

【反対者】小久保、斉藤、永井、青野、高橋、村田、保角、諏訪、岡村、島野、現王園(11人)

※議席番号順。太字は討論を行った議員。なお、滝瀬議員は議長のため採決には加わりません。

請願の趣旨

西後保護地区(南小学校前の雑木林)は、北本の大きな魅力である“雑木林のある街北本”のシンボルとして50年以上にわたり、近隣住民や近くの小学校・幼稚園・保育園の子どもたちが四季折々自然に親しむ場所として利用している雑木林です。南小通りに面した住宅地にあり、まさに“雑木林のあるまち北本”にふさわしいオアシスです。北本雑木林の会としても、発足当初から約30年にわたり地主さんに代わってごみ拾いや生い茂ったアズマネザサなどの下草刈りをしており、とりわけ親しみのある大切な雑木林です。
北本市は、西後地区と高尾阿弥陀堂地区の2か所を保護地区として指定しており、北本市緑の基本計画では「今後も指定を継続し積極的な維持管理を進めます」としています。しかし実際には、5年ごとの指定の更新の度に一部解除が進んでいます。昭和53年に西後地区が指定された時には約1.1ヘクタールありましたが、今年7月末にも更新を期に一部が解除され、0.19ヘクタールまで縮小しました。地主さんにとっても苦渋の決断だったそうですが、今後さらなる開発が進み、貴重な雑木林が失われてしまうことが懸念されます。
このままでは北本の貴重な雑木林が消滅してしまいます。今までどおり私たち市民みんなの癒しの場、憩いの場、自然学習の場、そして非常時の避難の場として、さらには環境の面からも大切な働きをしている雑木林を現状の姿で残すことは、未来の市民にとっても大変有意義であることから、以下のとおり請願いたします。

【請願事項】
1 西後保護地区及びその周辺に残っている雑木林について、公有地化するなど、将来にわたって確実に保全すること。

何が問題になったのか

建設経済常任委員会で不採択になった時には誰も討論をすることなく全員が反対したため、不採択の理由が分かりませんでしたが、本会議では保角議員、岡村議員、高橋議員が不採択に賛成の討論を行ったことで、不採択となった理由がわかってきました。

1.西後保護地区及び「及びその周辺」

西後保護地区は、昭和53年に指定された当初は1.1ヘクタールありましたが、令和5年8月1日には0.19ヘクタールにまで縮小しました。しかし、指定が解除されたものの雑木林が残っている部分もあります。残ったわずかな保護地区はもとより、できるだけ広い範囲で残していただきたいという趣旨で「及びその周辺」としましたが、仮に請願が採択された場合「周辺」土地で住宅を建てたり、店舗を開くことがやりにくくなるという意見がありました。請願者としては、現在雑木林となっている周辺地域を100%残せということではなく、出来る限り残していただきたいという意図ですし、そもそも議会の請願によって直ちに市民生活や経済活動が縛られることはありません(そこまでの効力はありません)。

2.「確実に」保全すること

この「確実に」は、これまでも保護地区であり優先的に保全してこなければならなかったはずなのに、実際には地権者の意向により次々と指定解除されている状況があることから、単なる「保全」では今までと同じになってしまうので、執行部に対しより一層の努力をしていただきいという意図で「確実に保全」としたものです。地権者の意向に関わらず、収用してまでも緑地を残せという意図ではありません。

質疑により「確実に」とは今の状態で全て保全しろという意図かと聞かれれば、「あくまでも執行部に対し保全のためのより一層の努力を促す意図であり、そのように取り組んだとしても今のままで完全に残すのは難しいことは理解している」と答弁したでしょう。

3.地権者の意向

岡村議員の反対討論では「地権者の意向は関係ないが」とあえて述べられておりましたが、実際には地権者の個別の事情を斟酌して不採択になったと感じました。私有地をどう使うかは地権者が決められるのが大原則ですが、まちづくりにおいては公共の利益のために制限を受けることもあります。

道路整備や土地区画整理事業においては、地権者の反対があったもすぐに諦めることはありません。粘り強く交渉し、最終的には理解を得て、整備を行っています。

これまでの道路整備に関する請願においても大きな方向性として道路を整備してほしいという請願趣旨を汲み取り、地権者との交渉は事業化の中でしっかりとやっていただきたいという考え方のもとで、採択をされています。

具体例を以下に挙げます。

過去に採択された請願との矛盾

県道312号線の延伸及び整備促進に関する請願(平成26年第1回定例会)

この請願は、県道312号線(南大通線)を国道17号線山中交差点より東側への延伸整備を求める内容です。しかし請願に当たり、地権者の意向や請願が可決された場合の今後の開発等の影響については検討されることなく、採択されました。

北本都市計画道路3・3・2中央通線のあずま通りから国道17号までの区間の早期の事業実施に関する請願(令和4年第4回定例会)

この請願は、北本駅東口から北本高校方面へ向かう中央通線のあずま通りから国道17号までの区間の早期拡幅を求める内容です。この請願の審査に当たっては委員会において次のような質疑がありました。

湯沢美恵
委員
湯沢美恵 委員

地権者の中に納得されてない方もいらっしゃり(事業化に)時間がかかっていると聞いているが、今回請願者さん等で地権者の方々に対し内々でもご協力をいただけるという話ができているのか。

岡村有正
紹介議員
岡村有正 紹介議員

自治会からの個別折衝は本来あり得ませんので、市で道路の施工の緊急性、重要性をしっかりと説明し、御納得いただく形で施工する形になると思います。

私は、この時の岡村議員の答弁は正しいと思っていますが、この考え方は今回の請願では採用されませんでした。

なお、道路と緑地・公園とでは扱いが異なるという意見もありますが、どちらもまちづくりの一環であり、土地収用法第3条においてもどちらも土地収用の対象とされています。

高橋議員からは、道路と違い緑地はこの場所でなければならない理由はない、西後保護地区でなくても農地を買い取って緑地にすれば良いという反対討論がありましたが、樹木だけでなく植物や生態系までも含めて雑木林には価値があります。別のところに植林すれば同じ、ということにはなりません。

まとめ

今回の請願が不採択となったことで、今後私有地に関わるまちづくりや都市基盤整備に関する請願については、慎重にならざるを得なくなります。少なくとも、地権者がどのような意向を持っているかを予め確認し、その意向に沿った形でないと、簡単には採択できないのではないかと思います。そうでなければ議会としての一貫性が保てないと感じています。

しかしながら、今回採択に反対した議員も、自分の中では一貫性を保っているのでしょう。討論の内容だけでは分からないこともありますし、討論せずに反対した議員も多数おります。そもそも今年5月に初当選した議員にとっては、この種の請願は今回が初めての審査でした。

それぞれの議員の考え方については、それぞれの議員が発行する通信やホームページ、報告会などで、賛成・反対の理由を確認していただけばと思います(そのような媒体や機会を設けていればですが…)。