北本市 令和5年度決算の解説

北本市議会令和6年第3回(9月)定例会において、市長から令和5年度決算の認定に関する議案が提案され、全て認定されました。このページでは、会計ごとに解説します。

令和5年度歳入歳出決算決算書(一般会計・特別会計)
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/19/giann202443-48.pdf

令和5年度 行政報告書(主要な施策の成果を説明する書類)
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/13/R5gyouseihoukokusyo.pdf

なお、工藤議員は一般会計ほか3特別会計について、決算の認定に反対しましたが、これは、市税等の滞納繰越調定額について、令和5年度決算額として示された数値が実際の数値とは異なっていることを理由としたものです。この件については、こちらのページ(http://sakuraisuguru.jp/2024/10/05/misaigaku-ayamari/)で詳しく説明しています。

北本市の財政状況は、引き続き健全な状態を保っていると言えます。

単年度収支から、財政調整基金からの繰入れと同基金への積立ての影響を除いた「実質単年度収支」が2年連続で赤字となっている点は一般的には懸念点となりますが、本市の場合、財政調整基金以外の基金に積立てを行った結果なので、特に問題はありません。

歳入は、「市税」は人口減少の影響をあまり受けず、ほぼ横ばいで推移しています。「地方消費税交付金」もほぼ横ばいです。「地方交付税」は増加傾向にあります。これは地方自治体がやるべき事務が増えていることが要因で、その財源として国から交付されているものです。「国県支出金」は、新型コロナ対策及び物価高騰対策が一段落したことで、減少傾向にあります。「寄附金」はそのほとんどをふるさと納税寄附金が占めています。市の借金である「市債」はやや増加しました。

「市税」の内訳です。個人市民税はほぼ横ばいです。人口は減少していますが納税義務者数は増加しています。定年の延長や共働きの増加によるものと思われます。法人市民税はほぼ横ばいです。固定資産税は家屋分が増加しています。転入者の増加により新築住宅が増えた影響と思われます。軽自動車税は、普通自動車からの乗り換えが進んでいる影響で増加しています。

株式会社SUBARUは平成29年9月に産業機器事業から撤退し、北本市の埼玉製作所は部品物流倉庫となったため、同社からの法人市民税が大きく減少しました。しかし2024年1月に、2025年に生産開始予定としているトヨタハイブリッドシステムを搭載した次世代e-BOXER車両向けのトランスミッション生産工場の立ち上げ準備を進めるため、「埼玉製作所」の拠点名称を「群馬製作所北本工場」に改称することを発表しました。これにより、北本工場での事業拡大、従業者増が期待され、法人市民税収の増加にもつながるものと思います。

「寄附金」のほとんどを占めるふるさと納税寄附金の推移です。寄附額は約11億9,600万円で、前年度から7.7%増となりました。一方、ふるさと納税の募集に要した費用は13.1%増となり、寄附額から費用を差し引いた純収入は3.7%増に留まりました。ふるさと納税は「ポータルサイト」を通じて募集するのが一般的ですが、ポータルサイトが手数料を引き上げたために、費用が増加しました。

さらに、北本市民が他の自治体にふるさと納税寄附をした場合、北本市の個人市民税収が減少しますが、その減少額(控除額)は前年度から14.9%増の1億7,546万1千円となりました。北本市では令和5年度に約12億円の寄附を受けましたが、実質的な増収は約4.8億円です。

なお、返礼品の上位3社は表のとおりです。引き続き銀座英國屋(オーダースーツ仕立て補助券)が人気で、全体の約95%を占めていますが、件数ではグリコが約40%で1位となりました。

歳出では、民生費と教育費が大きく増加しました。「民生費」は、高齢者関係、障害者関係の費用が増加傾向にあるほか、新中央保育所の整備により大きく増加しました。「教育費」は令和2年度にGIGAスクール対応(一人一台端末や電子黒板の整備)で増加したあと、令和4年度は20億円を下回りましたが、令和5年度は小中学校給食費無償化を実施したため、再び大きく増加しました。「公債費」は市債残高の減少に伴い減少、「衛生費」は新型コロナワクチン接種関係費用の減少に伴い減少しました。

なお、総務費については新型コロナ流行前は20億円台で推移していましたが、令和2年度に1人10万円の定額給付金により100億円近くまで増加した後、令和3年度以降も40億円台で推移しており、コロナ前の水準に戻っていません。これは総務費の中にふるさと納税関係支出や、基金への積立てがあるためです。

令和2年度以降、新型コロナ関連費用の急増により、北本市の決算額も大きく影響を受けたため、この影響の大きさを把握するために、新型コロナ関連費用の算出をしています。令和4,5年度については、桜井が独自に算出したものです。

新型コロナ対策が一巡した後は、物価高騰対応として主に低所得者向けに国からの交付金を財源として対策が講じられてきました。令和5年度は国からの交付金を活用し、小中学校給食費無償化を実施しています。

右の表のとおり、令和2年度決算額は大きく増加したものの、そのほとんどが新型コロナ関連によるものでしたが、令和3年度以降は新型コロナ以外の決算額が大きく増加傾向にあることがわかります。

これは、物価や事件費の上昇、市の業務量の増加によるものと考えられます。新型コロナ対策として国が財政出動を繰り返し行ったことにより、デフレが解消し、物価上昇につながっているものと考えられます。

これも桜井が独自に作成した分野別の決算額の推移です。高齢化の進行により高齢者関係の費用が増加していると思われがちですが、高齢者だけでなく、子ども関係、障害者関係の費用も増加していることがわかります。医療には、新型コロナワクチン接種経費を含みますので、令和6年度はさらに減少すると思われます。

市の貯蓄である、基金残高の推移です。使途が定められていない「財政調整基金」は新型コロナの流行移行増加していましたが、令和3年度以降は約20億円で安定的に推移しています。

一方、使途が決められている特定目的金はここ数年で大きく増加しています。「公共施設整備基金」は今後の公共施設の再編のため、「南部地域整備基金」は久保特定土地区画整理事業やその周辺事業の実施のため、「新ごみ処理施設整備基金」は新ごみ処理施設整備のために積み立てているもので、まだ十分な残高とは言えません。

ふるさと応援基金は、ふるさと納税寄附金を積み立てているものです。詳しくは市のホームページをご覧ください。
https://www.city.kitamoto.lg.jp/soshiki/seisakusuisinbu/koushitsu/gyomu/hurusatonouzei/kitamotoshi_hurusatoouenn_kikin.html

市の借金である、市債残高の推移です。一貫して減少傾向にあることがわかります。

グラフの黄色の部分は「臨時財政対策債」といって国の借金を肩代わりしているものです。返済の財源は地方交付税として交付されているので、市の負担はありません。市の実質的な借金は、臨時財政対策債を除いた部分(赤い数字)の部分で、市債全体よりも大きく減少傾向にあります。

臨時財政対策債を除く市債残高は約70.97億円で、基金残高約73.09億円を下回りました。一般会計では、貯蓄残高が借金残高を上回ったことになり、財政状況が良くなっていることを示すものです。

一般会計決算の評価

評価できるところ

学童保育室の混雑緩和に向け中丸第二学童保育室の整備に着手、また、民設放課後児童クラブ利用者臨時補助金を実施し、一定の混雑解消につながっている。

待機児童の解消を図るため、きたもと保育士就職奨励金交付事業を創設した。利用者はいなかったが、市として独自の補助制度を設け保育士の確保を図ろうとしたことは評価できる。また、新中央保育所を整備したことにより、保育環境の改善につながった。

評価できない点

市長公約である小中学校給食費完全無償化は、令和5年度単年度で終了、令和6年度は中学生のみ無償化を継続し、小学生は物価上昇分のみの補助となった。しかし、令和5年度末の基金残高は約73億円で、前年度から約9億6千万円増加している。これだけ基金を積み増せるのであれば、少なくとも令和6年度は完全無償化を継続できたはず。

本市では、高齢者等の移動手段の確保が大きな課題となっている。路線バスは利用者の減少や運転手の確保が課題となり、減便が続いている。デマンドバスは予約が取りにくい、使い勝手が悪いという意見が多く、公共交通機関を補完する交通手段として、十分とは言えない。このような状況にも関わらず、令和5年度中は公共交通会議を開くこともなく、バス路線維持のためのバス運行経費負担金を増額交付しており、全くの無策。移動手段の確保に大きな危機感を抱いている福祉部と連携し、来年度予算に向け具体的な対策を講じること。

後期高齢者医療制度は、埼玉県後期高齢者医療広域連合が主体となって運営しています。北本市後期高齢者医療特別会計は、北本市内の被保険者から保険料を徴収し、軽減分(一般会計繰入金=市負担分)と合わせて広域連合に支払うための特別会計です。後期高齢者の増加により、決算額は増加傾向にあります。

後期高齢者医療制度に係る市の負担分は、一般会計から広域連合に支払っています。広域連合に対する負担金額とそのうち医療給付分の決算額の推移は上の表のとおりです。

久保特定土地区画整理事業特別会計の決算額は、令和3年度までは3億円台以下で推移していましたが、令和4年度に4億円台に増加、令和5年度は5億円台となりました。市長が示した見直し方針(デーノタメ遺跡の保存・西仲通線の迂回・久保特定土地区画整理事業の縮小)が議会に認められたことで、事業の方向性が明確となり、大きく進むこととなりました。

令和5年度は久保大通線の雨水函渠整備や西仲通線予定地の家屋移転などを進めました。

久保特定土地区画整理事業は、現在の計画では令和7年度末に終了することになっています。市長の見直し方針を元に現在計画変更に着手しており、令和6年度に都市計画道路・西仲通線の都市計画決定変更、令和7年度に土地区画整理事業の計画変更を予定しています。

計画変更により、残事業費や事業期間が明らかになります。

国民健康保険の加入者は減少傾向にあります(75歳以上は後期高齢者医療に移行するため)。基本的には歳出決算額は減少する傾向にあります。

歳出のほとんどを占めるのが「保険給付費」です。令和5年度の保険給付費の内容は次のとおりです。療養給付費は減少しましたが、入院による診療費は増加しました。入院診療費で疾患別に特に大きいものは心疾患、がん、脳梗塞だそうです。

診療費全体では、糖尿病や慢性腎臓病などが多くを占めています。これらの生活習慣病を予防するために市としても特定健康診査や特定保健指導の受診率アップを目指していますが、目標には大きく届かない状況が続いています(県内の多くの市町村で同様の状況です)。このため、令和6年度からは特定健康診査を無償化しています。

桜井の賛成討論

本市では、県が示す標準保険税率と実際の税率に乖離があるが、財政調整基金を取り崩すことなく基金残高を維持できており、概ね適正と言える。県では保険料統一を目指しているが、その必要があるかは疑問がある。準統一が本市国保財政に与える影響を十分に考慮し、保険税の在り方について県に対してしっかりと意見するよう求めます。

本市の国民健康保険税の徴収率は上昇したが、保険者努力支援制度の配点は、100点満点中20点しかない。引き続き徴収率向上のための取組を強化してください。

また、後発医薬品促進の取組・使用割合は、保険者努力支援制度の配点が、令和4年度は130点満点中110点でしたが、令和5年度は40点に下がりました。本市としても利用率は向上しているものの、他市が利用率を大きく向上させたことで相対的に点数が下がったとの説明がありました。より一層の利用率向上の取組を行ってください。

医療費を疾患別に見た場合、大きな割合を占めているのは、糖尿病や慢性腎臓病。これらの疾病の早期発見、早期治療を図るため本市では、総合振興計画において特定健康診査の受診率の目標を60%としているが、令和5年度の受診率は前年度を0.2ポイント下回る39.1%でした。令和6年度から検診の無償化をしたので、無償化の効果を検証し、受診率の目標達成に向け、引き続き効果的な受診勧奨に努めてください。

最後に、国保財政の構造的な問題により、今後も保険税の引上げや一般会計からの繰入金の増額が必要となる恐れがある。国民皆保険を維持するためにも、医療保険制度全体の抜本的な見直しについて、県や他の市町村とも連携し、国に対して要望すべきであることを申し上げ、賛成の討論とする。

令和5年度は、第8期介護保険事業計画の最終年度(3年目)で、介護保険料の改定はなく、保険料収入は前年度並みでした。高齢化の進行により介護サービス利用者が増加しているため、歳出合計は増加傾向にあります。

介護認定率(第1号被保険者(65歳以上)に対する要介護・要支援認定者の割合)は、年々上昇しています。年齢が上昇するについれて介護認定を受ける人の割合が多くなります。現在、北本市で最も人口が多い年齢層(団塊の世代)は75歳前後です。認定率は、75~84歳では15%前後ですが、85歳以上では50%を超えます。北本市で介護需要がピークを迎えるのはまだこれからです。介護人材が不足する中で、今後どのようにして介護サービスの受け皿を整えるのかが大きな課題です。

桜井の賛成討論

第8期介護保険事業計画期間中、支払基金残高が大きく減少することはなかった。第8期の介護保険料の設定が概ね妥当であったものと評価できます。

第8期の3年間は、高齢化の進行により認定者数が大きく増加した。地域包括支援センターの委託料を増額し、一定の機能強化を図ったことは評価できる。しかし、本市が目指す「住み慣れた地域で暮らし続けられるまち」の実現に向けては、まだまだ課題が多い。

保険給付費の居宅介護サービス費は前年度比で7.4%増加し、住み慣れた地域で暮らすための居宅介護サービスが充実したかのように見えるが、サービス別に見ると、金額が大きく増加しているのは認知症対応型共同生活介護と特定施設入居者生活介護、つまり自宅を離れ、グループホームや有料老人ホームなどで暮らすためのサービス。地域密着型の小規模多機能型居宅介護や看護小規模多機能型居宅介護の充実が望まれる。

また、本市では、認知症の周知・啓発を図る事業にほとんど予算を割いてこなかったが、認知症の相談窓口を知らない高齢者の割合は、2019年調査では男性72.2%、女性66.6%%だったのに対し、2022年調査では男性78.1%、女性68/3%と相談窓口を知らない人の割合が増加している。相談窓口を知らない人が多いということは、認知症の早期対応ができない可能性が高いということ。社会福祉協議会や民間事業者の協力により、周知の取組が強化されているが、市としても広報を活用するなど認知症相談窓口の周知に努めてください。

緊急時通報システムについては、ブザー型に加え、センサー型を導入したが、利用者はあまり増えていません。自治会長さんや民生委員さんの声を聴いても見守りニーズは高いと感じています。利用要件の緩和を検討してください。

本市の年令別人口からは、団塊の世代が85歳に到達する10年後辺りに介護需要のピークを迎えそう。介護人材が不足している中で介護サービスの量と質を確保しなければならない。大変難しい課題だが、介護保険事業の運営主体として責任を持って取り組んでください。

令和5年度の介護保険特別会計決算につきましては、課題は多いものの、おおむね適正に予算が執行され、法令についても遵守し、財政の健全性も保たれていることから、認定することが妥当であると申し上げ、賛成の討論とする。