子どもの貧困対策法改正へ 5.15緊急院内集会報告

子どもの貧困対策法 改正へ

5月14日、衆議院第一議員会館大会議室において、子どもの貧困対策法改正緊急院内集会が開催されました。

子どもの貧困対策法は平成25年に制定されました。法律とは直接関係ないものの、子ども食堂や貧困家庭向けの学習支援がブームとなるなど、子どもの貧困という課題があることを世間に知らしめたという点で、大きな成果があったのではないかと思います。

その反面、十分な予算措置がなく、支援も民間・ボランティア頼みというところがあり、子どもの貧困対策法や子供の貧困対策大綱の見直しが求められていました。

今回の集会では、子どもの貧困対策法の改正案が示されました。改正案を作ったのは、超党派による子どもの貧困対策推進議員連盟(会長:田村憲久元厚生労働大臣、事務局長:牧原秀樹元厚生労働副大臣)です。超党派というところが素晴らしいですし、心強いです。

「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークが作成したリーフレットから

「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークが作成したリーフレットから

改正案の概要

改正案を見てみましょう。まず第1条(目的)が、大きく修正されています。ここだけでもかなり本質的な改正です。

  • 子どもの将来だけでなく、現在にも着目。
  • 貧困の状況にある子どもだけでなく、全ての子どもを対象に。
  • 児童の権利に関する条約の精神にのっとることを明記。
  • 目的を、貧困対策の推進ではなく、貧困の解消に資することに修正。

次に第2条(基本理念)も大きく修正されています。

まず、子どもの意見の尊重や子どもの最善の利益の優先など、子どもの人権の尊重が明記されました。さらに、「就労の支援」も「職業生活の安定と向上に資するための支援」に改められ、「子ども等の生活及び取り巻く環境の状況に応じて包括的かつ早期に講ずる」ことも追記されました。

また、第8条(子どもの貧困対策に関する大綱)では、大綱の作成に当たり「貧困の状況にある子ども及びその保護者」の意見を反映させることとされているなど、当事者の要望を踏まえたものとなっています。

改正案の全文は、公益財団法人あすのばのホームページに掲載されています。

※ 改正案は子どもの貧困対策推進議員連盟が作成したものであり、今後修正される可能性があります。

法改正だけでは子どもの貧困は解消しない

さて、ではこの改正が実現すれば、子どもの貧困は解消されるのでしょうか?それは、法律に則って策定される大綱や地方自治体の計画、そして大綱や計画に従って実施される具体的な事業にかかってくると言えるでしょう。

子どもの貧困という状況があることは世間に知られることとなりましたが、個別具体の状況は依然として見えにくいままです。世帯の収入・所得だけでは貧困の度合いは測れません。児童虐待と同様に、ちょっとした手がかりから家庭の状況を推測し、疑わしい状況があればしっかりと調査し、必要な支援を講じる必要があります。

それでも「貧困の子どもを見つけ出す」ことや「貧困であることを判定する」ことは、極めて困難な作業ですから、できるだけお金を掛けずに子育てができるように無償化の分野・対象を拡げていく、つまり子どもの家庭環境によって保育や教育が左右されないようにすることも同時に進めなければいけないでしょう。

子どもの貧困を生み出さない社会へ

もう一つ、大事な視点があります。今回の院内集会にも参加されていた松本伊智朗・北海道大学教授が著書『「子どもの貧困」を問いなおす―家族・ジェンダーの視点から―』(法律文化社)で指摘していた点で、子どもの貧困に対する社会的関心が高まっている一方で、子どもの貧困を生み出す構造が強化されているのではないか、ということです。

子どもの貧困を生み出す構造の側面として、つぎの3点を挙げています。

  1. 労働の不安定化、所得格差の拡大、社会保障の後退など、親や家族の貧困が進行・深化していること
  2. 過度の競争圧力と子どもをめぐる公共圏の縮小を背景に、「子ども期」を保障する社会的基盤が脆弱化していること
  3. 子どもの養育手段・教育の市場化と強い家族規範を背景に、子どもの養育と費用調達の負担が親・家族に集中していること

対症療法的に貧困家庭の子どもを救済する取り組みを進めることでは、子どもの貧困は解決しません。社会にある「子どもの貧困を生み出す構造」を解消することこそが重要です。そのためには、最低賃金の引き上げ、非正規雇用の処遇改善、失業・休業補償の強化、ケアの社会化の推進など、やるべきことはたくさんあります。

「子どもの貧困を生み出す構造」が解消されれば、子どもを産み育てやすくなり、少子化も改善に向かうでしょう。また、子どもがいない家庭や、すでに子育てが終わった家庭にとっても、こうした改善は生活の質の向上につながり、現在及び将来の生活の不安を軽減させます。

子どもの貧困対策が必要のない社会を創る。これが最終目標であることを間違えてはいけません。