久保区画整理事業の見直しとデーノタメ遺跡の共存【詳細】

久保特定土地区画整理事業の現状

久保特定土地区画整理事業は、昭和44年頃から検討が始まり、昭和60年前後に組合施行ではなく市施行で実施する方針となり、平成8年に都市計画決定を受け、平成9年から事業が開始されました。当初計画では、事業期間は平成17年度まで、総事業費は107.2億円でしたが、その後3回の計画変更を経て、事業費は110.3億円事業期間は令和8年度までとなりました。事業期間は残り5年ですが、下表のとおり進捗率は芳しくなく、事業計画の変更は避けられない状況です。

区画整理事業の長期化

平成13年度にオオタカの営巣が確認され、また平成19・20年度に実施されたデーノタメ遺跡の第4次発掘調査において遺跡の評価が高まったことで、見直しが必要となりました。平成21・22年度に市が検討委員会を設置し、「区画整理事業と遺跡の共存を目指した新しいまちづくりを行うことが、市として望ましい方向」と提言されたものの、具体的な方策は決定されませんでした。

区画整理事業の見直しの経過

区画整理事業の見直しに向け、令和元年度、2年度の2年間で計1,397万円の予算を使い、調査を行いました。

令和元年度は、過去の経緯や検討結果の整理・取りまとめ、共存に向けた課題の整理などを行いました。令和2年度は残事業費を算出し、このまま事業を継続した場合と縮小した場合の比較を行いました。この調査では、区画整理事業を継続した場合の残事業費(市負担額)80.4億円・残年数32年、遺跡を除外・保存活用した場合の残事業費(市負担額)79.1億円・残年数26年で、遺跡除外の方が6年早く、1.3億円安くなるという計算でした。

区画整理事業の見直しと並行して、教育部(文化財保護課)でもデーノタメ遺跡を記録保存(発掘調査のうえ、記録を作成し、開発を行う)する場合と、発掘調査を行わずに保存・活用する場合の比較を行いました。

区画整理事業とデーノタメ遺跡のそれぞれの試算を持ち寄り、「久保土地区画整理事業及びデーノタメ遺跡の保存に関する庁内調整会議(副市長がトップ)」において検討を重ねた結果、「区画整理事業を継続した場合よりも遺跡エリアを除外して保存活用した方が、事業期間が6年短縮され、事業費の市負担が約3.5億円少なくなる」とする結果を令和3年7月21日に市長へ報告しました。

説明会資料から

三宮市長による方針決定

調整会議の報告を受け、7月27日、三宮市長は「区画整理事業を見直し、デーノタメ遺跡を保存・活用する方針」を決定し、この決定にしたがって事業を進めるよう職員に指示しました。

令和3年8月26日、三宮市長は久保特定土地区画整理事業からデーノタメ遺跡の範囲を除外・縮小し、デーノタメ遺跡は保存・活用をすることを市議会全員協議会で報告、説明しました。8月28日には地権者説明会を開催しました。

三宮市長は、市長選挙に立候補するにあたり、「北本の暮らしの原点、『デーノタメ遺跡』の国史跡化」を掲げており、実現に向け大きな一歩を踏み出したこととなります。

久保特定土地区画整理事業の縮小

久保特定土地区画整理事業は、デーノタメ遺跡の範囲とその周辺を除外規模を縮小して事業計画を変更することとなりました。今後、地権者への説明を進めつつ、県や警察、近隣市との協議を進めます。一部換地の変更も必要となります。計画変更には様々な手続きが必要で、県で変更の認可を受けるまで4年程度かかる見通しです。なお、区画整理事業から除外された範囲についても、別途まちづくりプランを策定します。

説明会資料から

区画整理事業においては、デーノタメ遺跡の場所は主に公園や調整池になる予定でした。区画整理事業では事業地内に一定割合の公園を設置する必要がありますが、遺跡を除外した場合でも遺跡を公園にすることで、区画整理事業地内の公園面積を減らすことができるそうです。また、調整池については、別の場所に設置することになりますが、十分の面積が確保できない場合には深くすることで容積を確保する必要があります。その場合、別途ポンプを設置する必要が生じる可能性があり、今後検討を要します。

区画整理縮小のメリットとデメリット

区画整理の区域を縮小すれば、区画整理事業としての「残事業量」は減りますから、当初計画どおり実施した場合よりも、早く完了できるのは当然です。どの程度早くなるかは今後の財政事情によりますが、市の試算では今のペースで事業を進めた場合、縮小により6年早く完了するとしています。その実現性については、後半で改めて検討します。

区画整理の縮小により、換地をやり直す必要があります。その影響は全地権者に及ぶため、地権者全員から理解を得る必要があります。同意に時間がかかれば、事業計画の変更・認可も遅くなり、早期完了が実現できなくなります。

なお、区画整理事業地内の公園や都市計画道路の面積が小さくなった影響などにより、減歩率が現計画の26.25%から22.20%になる見込みです。減歩率が小さくなるため、一般的には換地により失う土地の面積が小さくなるか、受け取る清算金が多くなる(又はは支払う清算金が少なくなる)ことになります。地権者によって不公平感が生じるおそれはあるものの、計画変更の合意は比較的得られやすいと考えられます。

都市計画道路の見直し

今回の見直しにより、都市計画道路・西仲通線はデーノタメ遺跡の範囲を迂回することになります。

西仲通線は、県道東松山桶川線以南(桶川市・上尾市部分)が完成しています。迂回ルートは、県道を超えて北進し、久保大通線までは元の計画と同じです。ここから西進し(久保大通線の延長線上)、UR北本団地の周回道路に突き当り、周回道路を北進する形状となり、デーノタメ遺跡の北側で元のルートに戻ります。

周回道路と重なる区間は、区画整理事業から除外されます。この区間は拡幅工事が必要となりますが、事業の優先度としては区画整理事業に劣るものと考えます。

説明会資料から

また、南2号線は、現在の計画では西仲通線を起点に区画整理事業地内の北寄りを横断し、高崎線をくぐり、バーミヤンのあたりで中山道に接続する計画でしたが、今回の見直しにより「廃止」される予定です。

市では、これらの見直しによる交通量の影響を調査しています(県に委託)。現行の計画では、中山道と西仲通線で交通量が分散する見込みでしたが、見直し後は西仲通線の交通量が大きく減少する見込みです(5,413台/日→890台/日)。迂回により、西仲通線の利便性は大きく低下します。市西側の幹線道路として上尾道路の整備が先行していることを踏まえると、西仲通線の整備の必要性を問い直す必要があるのではないでしょうか

デーノタメ遺跡の保存・活用

市の決定では、デーノタメ遺跡とその周辺地域は、久保特定土地区画整理事業の範囲から除外し、別途まちづくりプランを策定し、整備することとなります。

説明会資料から

令和2年1月には一般社団法人日本考古学協会から「全国的に見ても稀有な遺跡」と評価され、保存を求める要望書が提出されています。また、令和2年2月には北本市文化財保護審議会から保存・活用するよう答申されています。デーノタメ遺跡は、国指定史跡を目指します。原則としては、区画整理事業から除外されることが確定した後でなければ、国史跡に指定されることはないと思います。補足資料において市が示したスケジュールでも具体的な年度は示されていませんが、三宮市長は昨年2月に「任期中の申請を目指す」と表明しており(東京新聞の記事)、区画整理事業の計画変更が認可される前に見切り発車的に申請する可能性もありそうです

遺跡範囲は、公有地化し、できるだけ現況を活かして都市公園とする予定です。現況はほとんどが「山林」であり、樹木を伐採・伐根してしまうと埋蔵文化財に影響する可能性があるため、発掘調査が必要となってしまいます。遺跡の保存の方法としては遺跡を傷つけない「現状保存」が最善です。

ところが、市の説明資料では、このエリアに復元住居やガイダンス施設を整備する予定になっています。遺跡エリアの整備に36.3億円(うち市負担10.6億円)を見込んでいますが、8.5億円(市負担5億円)は史跡・ガイダンス施設整備費です。

北本市では人口減少に合わせた公共施設の統廃合を計画しています(公共施設適正配置計画)。市民に身近な施設である学校や公民館の廃止も検討されている中、遺跡のために新たな施設を整備することに対し市民の理解を得られるか、疑問があります。

説明会資料から

捕捉資料から

遺跡の保存と活用は同時期に行う必要は無く、まずは「保存」を優先し、復元住居やガイダンス施設を整備する「活用」に関しては、区画整理事業や遺跡の保存が完了した後に、その時に財政状況なども考慮しながら実施すべきと考えます。

なお、遺跡の周辺の整備に当たっては、別途「まちづくりプラン」を策定することになります。プランの策定は、区画整理事業の見直しと並行して行う予定とされています。

説明会資料から

財政計画の妥当性・事業完了の見通し

今回の見直しでは、現事業計画を継続した場合と、見直した場合とで、事業費や事業期間を比較し、市の負担がより少なく事業期間も短い「見直し案」を採用することとなりましたが、果たして市が試算した事業費や事業期間は妥当なのでしょうか?検証してみます。

区画整理事業の残事業費と残事業年数

今回の久保特定土地区画整理事業の見直しにあたり、残事業費を整理しています。残事業費は、事業完了に必要な総事業量を工事等の種別ごとに算出し、実施済みの事業量を差引き、算出しています。

残事業量に、工事等の種別ごとの事業費単価を乗じて残事業費を算出しています。工事等単価は、計画時の単価を基準として、昨今の工事単価が計画時よりも高騰していることを踏まえ、計画時単価の1.5倍を基本として算出しています(個別には工事等の種別ごとに細かく積算しているものもあります)。

残事業量についてはおおよそ正確に計算できますが、将来における工事等の単価を正確に見積もることはできません。残事業費は、あくまで現時点での試算として理解する必要があります。人件費や原材料費が今後も高騰を続ければ、残事業費はさらに膨らむこととなるでしょう。

では、残事業年数はどのように算出しているのかというと、久保特定土地区画整理事業の残事業費(事務費を除く)を1年2.5億円で割って算出しています。平成24年度~令和元年度の久保特定土地区画整理事業の実績を基に、年2.5億円は実施できるとして算出したものです。

しかしながら、近年の決算額を見ると、歳出合計は約3億円で推移していますが、公債費(借金の返済)が1億円以上で増加しつつあり、事業費の近3年平均は1.2億円でしかありません。特に令和2年度は1億円を切ってしまいました。このペースではあと26年では到底終わりません。

決算額が減少傾向になっているのは、国庫補助金の交付決定額が少なくなっていることが大きな要因です。今後、事業費として年間2.5億円を確保していくためには、国庫補助金がきちんと交付されることとが大きなカギとなります。市長と議会が協力して、国に働きかける必要があるでしょう。

また、念のため予算額の推移を見ておくと、予算ベースでは毎年度2.5億円以上の事業費を確保できています(国庫補助金さえ交付されれば事業は実施できる状況にある)が、一方で、公債費の増加により、歳入のその他=主に一般会計からの繰出金が増加しています。事業費を確保しつつ市債を滞りなく償還していくためには、一般会計からの繰出金を増やさなければいけない可能性があります。一般会計と同様に、久保特定土地区画整理事業特別会計の公債費についても将来推計を作成し、今後必要となる一般会計からの繰出金を把握しておかなければなりません。

埋蔵文化財の発掘調査費用

区画整理事業を継続した場合の経費が増大する大きな要因が「文化財発掘調査費用」です。市の試算では約20.2億円(市の負担は17.7億円)としています。本当にこんなに掛かるのだろうかと思い、念のため確認しました。

発掘調査費用の積算は、文化財保護課が県の積算シミュレーションを使って試算しています。発掘調査の費用は、土地の現況により大きく異なり、低地(湿地)部分は台地部分よりも約5倍の調査費用が掛かるとされています。調査が必要な範囲のうち低地の面積は26.8%にすぎませんが、調査費用の65.1%を占めています。

また、これだけ大規模な発掘調査を市が単独で実施することは困難なため、県の埋蔵文化事業団に委託することとなり、市が直接実施する場合と比べ約1.5倍の費用が掛かります。これらの事情により、発掘調査費用が約20.2億円と高額になることが見込まれます。

県埋蔵文化事業団の発掘調査実績も確認しましたが、市が試算した費用はおおむね妥当なものと考えられます。

遺跡範囲を区画整理事業から除外する(遺跡範囲を開発しない)ことにより、莫大な発掘調査費用の負担を回避するとした市の判断は、妥当ではないかと思います。

デーノタメ遺跡の保存・活用の費用

遺跡の保存・活用の費用のうち、活用に当たる遺跡やガイダンス施設の整備については先に述べました。事業費については、県内の同様の施設の費用を参考に算出したそうです。活用より先に保存が必要なことは明白なので、ここでは「遺跡の保存」について見ていきます。

遺跡の保存に当たっては、用地測量、不動産鑑定、用地取得を行います。このうち特に高額となるのが用地取得費(27.5億円)です。用地取得単価は50,000円/㎡で積算しています。一方、久保特定土地区画整理事業地内の保留地の処分金は110,000円/㎡で計算しています。前者は低地(湿地)を含む山林、後者は区画整理地内の成形された宅地ですから、遺跡用地の方は余裕を見て少し高めに積算したのではないかと思います。取得前には不動産鑑定を行いますので、あくまで目安としてお考えください。

用地取得費のうち8割は国庫補助金が交付される見込みですが、それでも市の負担額は5.5億円になります。区画整理事業完了後に行うことになれば、遺跡の保存(用地取得)は令和28年度以降となってしまいます。区画整理事業と並行して取得も進める場合には、別枠で財源を捻出する必要があります。市の財政にとっては厳しいものとなりますが、区画整理を計画どおり実施すれば発掘調査費の負担が生じますので、遺跡保存の方がまだ負担は少なく済みます。

見直しの方向性に関する私見

今回の様々な試算について私なりに調査をしてみましたが、論理的におかしな部分はなく、概ね妥当なものと評価しています。もちろん長期にわたる試算なので、このとおり進む保証はありませんが、区画整理事業を縮小した方が事業が早く終わることは間違いのないと思います。今回の市の試算には、遺跡の活用のための費用など、一部先送り(見送り)できそうな部分もありますので、試算以上に市の負担を抑えられる可能性もあります。見直しの方向性にはおおむね賛成です。

しかし、見直しを進めるためには、地権者だけでなく、財政的な負担者でもある市民全員に理解をしていただく必要があります。市長の任期中に理解が得られないようであれば、この見直し自体を断念せざるをえなくなると思います。まさに時間との勝負です。

これまでも市長は、議会や市民に対する丁寧な説明を行ってきませんでした。形式的に説明会を開き、合意を得たとして、強引に事業を進めてしまう可能性もあるのではないかと懸念しています。地権者だけでなく市民にも丁寧に説明し、合意形成に努めることを求めようと思います。

※2021/9/28 20:07追記
久保特定土地区画整理事業における国庫補助金の交付や公債費(市債の償還)が不透明です。事業を着実に進めるためには、きちんと財政計画を立てて、事業費(財源)を確保する必要があります。

市長による方針決定の問題点

デーノタメ遺跡の国史跡化の方針決定について、令和元年12月定例会の私の一般質問において、市長は

「今後策定が予定されている総合振興計画の後期基本計画において、デーノタメ遺跡の史跡化を目指すことについて明記し、市民や議会にお諮りをし丁寧に御説明したいと考えております。」

と答弁しました。ところが、後期基本計画には個別の事業については記載しないことを決め、議会での自らの答弁を反故にしました。事前の説明も一切ありませんでした。

総合振興計画の後期計画に盛り込むことが重要なのではなく、議会や市民の合意のもとに進めることが重要なのです。計画に盛り込めば、パブリック・コメントにより市民の意見を聴くことになりますし、議会議決で議会の意思も反映されます。計画に盛り込まないのであれば、別の手段で議会や市民の合意を得るべきです。久保特定土地区画整理事業の見直しとデーノタメ遺跡の保存・活用は、今後何十年にも及ぶ、巨大事業です。三宮市長の任期中には到底終わりません。だからこそ合意形成が重要なのですが、三宮市長は理解できないようです。

しかもこの決定は、行政経営会議での議論すら経ていません。令和3年7月21日に庁内調整会議から報告を受け、7月27日の庁議において市長は「報告を踏まえ、事業計画の見直しを実施する方向で判断を下すこととした」と職員に伝達し、指示しています。

ところが庁内調整会議の報告書自体も、庁内調整会議において合意したものではなく、市長の判断のための材料という位置づけのようです。庁内調整会議で十分な議論も行わず、行政経営会議での議論もせず、市長が独断で決定したものです。

付け加えれば、文化財保護は、市長ではなく、教育長の所管事務です。市長がこの決定をした際、教育長は空席でした。教育長が不在の間に、教育委員会にも諮らずに、市長は方針を決定してしまいました。

市長の暴走を防ぐために、本会議で答弁を引き出し、議員としてルールに則ってできることをやってきたつもりですが、約束やルールを守らない市長が相手では成す術がありません。新ごみ処理施設整備の基本合意の締結に関しては、市民からも「リコール」という声が挙がり始めています。今後の進め方次第では、議会としても最終手段を検討せざるをえなくなると感じています。