視察報告(断らない相談支援・神奈川県座間市)

北本市議会会派・市民の力として座間市の「断らない相談支援」について視察してきましたので報告します。

生活困窮者自立支援事業をフルスペックで実施する座間市

座間市では「断らない相談支援」を実施しています。北本市でも令和4年度から「福祉総合相談窓口」を設置して、どんな相談でも受けるようにしていますが、座間市では単に相談を受けるだけではなく、その相談に対処するためのツールも揃えています。

特に重要なのは第2のセーフティネットともいわれる「生活困窮者自立支援事業」の各事業です。生活困窮者自立支援事業には、必須事業である自立相談支援、住居確保給付金の支給のほかに、就労準備支援、家計改善支援、一時生活支援、地域居住支援、子どもの学習生活支援、アウトリーチ事業といった任意事業があります。しかし、北本市が実施している任意事業は子どもの学習支援だけです。また、県内には地域居住支援事業を実施している団体はありません(令和3年9月現在)。一方、座間市ではこれらの任意事業をすべて実施しています。

◆各市町村の任意事業の実施状況はこちら↓↓↓
各事業の実施状況・委託先一覧(令和3年9月時点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059401_00004.html

座間市の取組は滋賀県野洲市と並び極めて先進的かつ理想的であることから、作家・ジャーナリストの篠原匡さんが取材し、他膿盆『誰も断らない-こちら神奈川県座間市生活援護課』(2022.6.30発行、朝日新聞出版)が出版されていますので、ぜひお読みいただければと思います。

断らない相談支援体制の根幹

断らない相談支援体制とは、多様化・複雑化する生活の困りごとの相談窓口を一元化し、既存の制度をフル活用するだけではなく、必要に応じて新たな社会資源を開拓(地域の中で取り組んでいる主体、取り組んでくれる主体を探し出す)し、連携を強化して事業化をしていくものです。

相談窓口の一元化は、相談へのハードルを下げるとともに、最新の困りごとに気づくことができます。地域資源の開拓と連携強化は、重層化支援体制の地域づくり事業にもつながるものです。全ての問題の対処を行政で抱えるのではなく、可能な事業を外部化することで、支援員の負担軽減にもつながります。

※ 文字にすると簡単ですがまさに「言うは易し行うは難し」です。職員のやる気だけではなく知識や経験が必要だと思います。首長の理解(どこまで福祉に力をいれるか)もカギになってくるでしょう。

任意事業の実施主体

家計改善支援事業、子どもの学習・生活支援事業:
座間市社会福祉協議会

就労準備支援事業:
はたらっく・ざま(生活クラブ生協、NPOワーカーズ・コレクティブ協会、さがみ生活クラブ生協の共同企業体)(ひきこもりサポート事業も実施)

一時生活支援事業:
NPOワンエイド(地域居住支援事業・フードバンク事業も実施)

アウトリーチ支援事業:
相談オフィスわ~くすケア

上記のほか、生活保護受給者当就労自立促進事業を行う「厚木公共職業安定所(ハローワーク)」、認定就労訓練事業を行う「認定NPOきづき」「社会福祉法人県央福祉会ブックカフェひばりが丘」、ユニバーサル就労支援事業を行う「社会福祉法人中心会ユニバーサル就労支援事務局」、生活困窮者自立支援事業に関わる各種助言を行う「神奈川県弁護士会貧困問題対策本部」などが支援調整会議に参加し、月1回の支援調整会議を開催しています。支援調整会議では事業報告や近況報告などを行い、課題の共有や改善策の検討を行っています。

一方、個人情報の共有が必要な個別ケースは、随時開催される支援会議で検討しています。支援会議のメンバーは支援調整会議のメンバーに限らず、実際の支援に必要なメンバーを入れています。

新型コロナ禍での相談の増加

新型コロナの感染拡大による個人への経済的支援については、社会福祉協議会における貸付が中心となっています。特に、影響が長期化した人、具体的には緊急小口資金と総合支援資金の貸付が終了し、総合支援資金の再貸付が必要な場合には、自立相談支援機関による自立相談支援を受けることが要件となっています。

北本市においては、総合支援資金の貸付は社会福祉協議会が担当し、自立相談支援は福祉課(現・共生福祉課)が担当していることなどから、再貸付を受けた人への十分な支援(その後の状況の確認)ができていません。

座間市でも令和2年度の自立相談支援事業の相談件数が1,300件(前年度487件)と急増しています。さらに、社協が行う家計改善支援事業の相談件数も、令和2年度1,797件(前年度838件)、令和3年度は2,468件と急増しています。

しかし座間市では、当初の緊急小口資金の貸付の段階から相談を受け、ただ貸し付けるのではなく、生活困窮者自立支援事業の任意事業も活用し、必要な支援を行ってきたとのことです。緊急小口資金や総合支援資金は貸付金であり、返済が必要であることから、家計改善支援の活用が重要になってきます。これは相談件数の増加度合いからも明らかと言えるでしょう。

座間市での重層的支援体制整備事業への移行は?

重層的支援体制整備事業とは、介護(高齢)・障がい・生活困窮などの分野にかかわらず、多様化・複雑化した困りごとに多機関が連携して対応するために令和3年4月から導入された事業で、各市町村の任意で実施することとなっています。北本市では、重層的支援体制整備事業を実施するため、令和4年4月に総合相談窓口を設置しました。

(参考)
厚生労働省・地域共生社会の実現に向けた取組の経緯
https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/keii/

介護・障がいに関しては、サービスを受ける前提として「認定」を受ける必要がありますが、生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業に関しては「複合的な課題を抱える生活困窮者が制度の狭間に陥らないよう、できる限り幅広く対応することが必要」とされています。座間市ではこれまでも「断らない相談支援」を合言葉に様々な相談に対応していることから、重層的支援体制への移行もそれほど難しいものではないでしょう。まずは移行準備事業の実施を検討しているようです(そもそも、各市町村において座間市のような取組をして欲しくて、新たな事業を国が作ったと言う方が正しいのかもしれません)。

居住支援の取組

生活に困難を抱える人にとって、住居の安定は極めて重要ですが、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯(住宅確保要配慮者)にとっては簡単なことではありません。

国土交通省では、住宅セーフティネット制度を作り、住宅確保要配慮者が賃貸住宅に入居しやすい環境づくりをしています。また、厚生労働省が所管する生活困窮者自立支援制度においても、居住に困難を抱える者であって地域社会から孤立した状態にある低所得者に対して、一定期間訪問による見守りや生活支援等日常生活を営むのに必要な支援を行う「地域居住支援事業」を一時生活支援事業に追加しました。

つまり、国土交通省において入居支援の制度を作り、厚生労働省において居住継続の制度を作ったわけですが、これらは十分に活用されているとは言い難い状況です(①全国の居住支援協議会の一覧、②地域居住支援事業の実施団体の一覧)。

座間市では、断らない相談支援を行う中で住まいに関する支援の重要性を認識し、不動産事業者や都市部局など関係団体との連携を強化してきました。令和2年度には生活困窮者自立支援事業の地域居住支援事業を実施、令和3年度には居住支援協議会を立ち上げました。

居住支援協議会については、新型コロナの影響で具体的な活動ができていないようですが、入居を断られやすい住宅確保要支援者に対する「入居のための支援」と「住み続けるための支援」を行う体制を市町村レベルできちんと構築している点は、さすがと言わざるを得ません。北本市としても、大いに見習うべき点だと思います。