令和5年度北本市当初予算の解説

令和5年度の当初予算案については、一般会計は賛成多数(日本共産党の2名が反対)、特別会計及び企業会計は全員賛成により、原案のとおり可決しました。

令和5年度一般会計・特別会計 予算説明書
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/19/giann202301-06.pdf

令和5年第1回定例会 記者発表資料
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/1/R50213kisyakaiken.pdf

歳出

令和5年度の当初予算額は234億6,500万円です。令和4年度から11億3,859万円、5.1%の増となっています。平成30年度までは200億円を下回って横ばいで推移しておりましたが、令和に入って200億円を上回り、その後も増加を続けています。中でも、特に増加しているのは、民生費です。

前年度との比較を見てみましょう。

大きく増加しているのは、総務費、衛生費、土木費、教育費、減少しているのは、民生費と公債費です。

総務費は、ふるさと納税寄附の増加に伴い年々増加しています。寄附金は歳入に計上されるものですが、歳出でも返礼品の購入、ポータルサイトなどへの手数料の支払いを計上し、経費を支払った残額を基金に積み立てるために予算を計上しておりますので、歳出も歳入と同様に増加しています。また、令和5年度は市長選、市議選、県知事選が予定されておりますので、選挙のための経費も増額の要因となっています。

次に衛生費です。衛生費の増加要素は、新型コロナワクチン関係とゼロカーボンの関係です。新型コロナワクチンの予算は、これまで補正予算で計上されてきました。今回初めて当初予算に計上されたので、当初予算の比較では増加となります。ゼロカーボンの関係では、地球温暖化対策実行計画の改定経費で891万円、新規事業の『ゼロカーボンシティ実現促進補助金交付事業』で1,000万円が計上されています。

次に土木費です。壊れたままになっていた総合公園スコアボードの改修で1.5億円が新規事業として計上されています。総合公園の野球場は、埼玉武蔵ヒートベアーズや高校野球の公式戦でも使用していましたが、スコアボードが壊れたことで、公式戦ができなくなりました。また、道路の維持修繕に関する費用も増額しています。

次に教育費です。栄小学校の跡地を栄市民活動交流センターとして活用するため改修の予算として約5億5千万円が計上されています。また、燃料費の高騰により、学校の光熱費もかなり増加しています。以上が増額の主な要素です。

つぎに、減額の方を見ていきます。

民生費は、約3億円の減です。これは、令和4年度には新中央保育所の整備事業、約6.2億円が計上されていたためです。民生費は、高齢者、障がい者、児童の3福祉と生活保護・生活困窮者に関する予算が計上されており、3福祉については、基本的に増加の傾向にあります。この傾向はしばらく続くでしょう。

公債費については、またあとで詳しく説明したいと思います。

(以下、2023年3月26日追記)

なお令和2年度から令和4年度は新型コロナ関連で多額の補正予算が組まれたため、当初予算と決算が大きく乖離しています。当初予算のグラフに決算額(赤線の折れ線グラフ・令和4年度は最終予算額)を加えたものが下のグラフです。

(追記ここまで)

歳入

次に歳入です。予算なので総額は歳出と同額です。内訳としては、全体として増加基調にあることがわかります。

市税については、人口減少や税制改正の影響により減少傾向にありましたが、ここにきて増加しています。また、北本市の特徴として、近年寄附金が大きく増えていることが挙げられます。

前年度との比較で細かく見ていきましょう。

市税地方消費税が増加しています。景気の回復というよりも物価の上昇が大きく影響していると思います。

地方交付税が増加しているのは、国税収入が増えていること、地方が行うべき事業が増えてきていること、燃料費の高騰分が反映されたことなどが要因と考えられます。地方交付税の増加に伴い、地方交付税の振替措置である「臨時財政対策債」は前年度の4億1,500万円から1億8,200万円に大きく減少しています。

寄附金は、ふるさと納税寄附が増えている傾向を踏まえ18%の増、繰入金はふるさと納税を活用した事業の実施で11.4%の増としています。

市の借金である市債の額は、全体では11.4%の減ですが、内訳を見ると国の借金の肩代わりである臨時財政対策債が2億3,300万円の減になっているのに対し、純粋な市の借金である普通債は7億9,700万円の増となっています。

これについても、後ほど詳しく解説します。

次に、高額事業と主な事業の予算額の推移です。

後期高齢者医療特別会計への繰出金後期高齢者医療広域連合への負担金が、年々増加していることがわかります。介護保険特別会計への繰出金も増加しています。これらは、高齢化の進行によるものです。

それから、障がい福祉サービス費の増加も顕著です。障がい者が増えているだけでなく、障がい福祉サービスが徐々に充実してきていることも、その要因です。

人件費も増加していますが、非正規職員である会計年度任用職員の処遇改善によるところが大きくなっています。

次に、令和5年度の主要事業と新規事業です。薄い黄色の事業は後で解説します。

まずは、新中央保育所の備品整備です。財源としてふるさと納税を活用します。

次に、事故発生リスクAI予測サービスの導入です。これまでPTAが中心になって行ってきた通学路安全点検に加え、損害保険会社の事故データを活用して、AIによるリスク予測を行います。予算額は33万円です。

次に、公民館へのエアコンサブスク導入です。これまでは壊れるたびに修繕の予算を計上していましたが、毎年「定額」を支払うことで、空調の更新と維持管理を行います。令和5年度予算では3か月分、300万円ですが、年間1,600万円、15年間の契約となります。なお、公民館は、公共施設マネジメント計画により、近い将来の廃止が予定されていますが、公民館の機能を移転する際には、エアコンも移設する予定とのことです。

最後に、転入・転出手続きの「書かない窓口」の実現です。転出・転入・転居に係る異動届等の記入を不要とする仕組みを構築します。令和6年1月頃の導入を予定しており、予算額は1,844万7千円です。

まずは、栄市民活動交流センターの整備です。

公共施設マネジメントの一環として、勤労福祉センター・コミュニティセンター・健康増進センターの機能を旧栄小学校に移転します。勤労福祉センターとコミュニティセンターは廃止を予定しています。

これからの人口減少に備え、公共施設を減らしていくことは必要と考えますが、3つの施設は地域住民の活動の拠点や憩いの場でもありましたので、これらを廃止することで地域活動や交流の後退につながらないか、懸念されるところです。どうやって活動拠点を維持するか、しっかり検討する必要があります。

また、今回、改修費用として5億5千万円が計上されました。改修費用としてはかなり高額です。元の計画では4億2千万円を見込んでいましたので、1.3億円の増加です。機能移転によりどのくらいのコスト削減が図れるのか検証が必要です。

次に、ゼロカーボンシティ実現促進補助金交付事業の実施です。

住宅用省エネルギー機器設置費補助金として、予算額500万円です。住宅用太陽光発電システム、家庭用燃料電池(エネファーム)、太陽熱利用システム、V2H(ブイ・トゥー・エイチ)充電設備、蓄電システムなどを新たに設置する市民に最大5万円、地中熱利用システムについては最大10万円を交付します。

省エネ家電買い換え補助金は、古い冷蔵庫から省エネ基準達成100%以上の電気冷蔵庫に買い換えた市民に、市内に本店がある店舗からの購入は最大3万円、その他の市内店舗からの購入には最大1万円を補助します。予算額は300万円です。

電気自動車等購入費補助金は新たに電気自動車、燃料電池自動車を購入した市民に最大20万円、プラグインハイブリッド自動車を購入した市民に最大10万円を交付します。予算額は200万円です。

いずれも予算の範囲内で、先着順となります。7月から受付を開始する予定です。

北本市では、昨年「ゼロカーボンシティ宣言」をしましたが、現状ではゼロカーボンに向けたロードマップが示されておりません。計画は策定中です。これらの補助により、温室効果ガスがどの程度削減されるのかも不明確です。ゼロカーボンシティの取組は必要でも実現は困難を極めるはずです。戦略的で実効性のある取組が必要なはずですが、有効性に疑問のある新規事業と言えます。採決に先立つ討論の中で、効果の検証を求めました。

次に中央通線延伸計画調査検討事業です。懸案となっている北本駅東口から北本高校へと延びる中央通線のあずま通りから国道17号線までの区間の延伸について、事業化に向けた調査検討業務を行う予算です。予算額は1,000万円です。

延伸と言っていますが実際には拡幅です。この区間は子どもたちの通学路になっていますが、自動車の交通量が多く、危険性が指摘されているところです。本来であればすぐにでも着手すべきところですが、この区間は拡幅に当たり、多額の用地買収や補償が見込まれる区間です。あずま通りまでの区間と同程度の幅で拡幅するのか、それとも少し狭めて実施するのか、方向性を定めるための調査費用となります。

最後に重層的支援体制整備事業です。こちらは拡充になります。令和4年度には、市役所内に「福祉総合相談窓口」を設置しました。しかし相談窓口だけでは、具体的な支援を行うことができません。令和5年度は、これを拡充し、伴走型の支援を行っていきます。

まずは、多機関協働事業の実施です。外部委託する予定です。地域の複合化・複雑化した事案について、関係する機関が参加する会議を開催し、支援の方向性を協議します。

つぎに、アウトリーチ等を通じた継続的支援事業の実施です。これも委託です。とくに、引きこもりの方などへの支援などを想定して、窓口で待っているだけでなく、アウトリーチ(訪問)することによって、潜在的なニーズを把握し、時間をかけた丁寧な働きかけにより、信頼関係に基づく支援を行おうというものです。以前から必要性を訴えておりましたが、予算化されました。

最後に参加支援事業の実施です。これも、引きこもりの方などへの支援を想定して、社会参加につながるような場の創出や社会参加の働きかけを実施するものです。重層的支援体制の中でも、大変難易度が高くカギとなる事業です。こちらも委託を予定しています。

以上説明した事業の他にも、深井保育所における完全給食(ごはんの提供)の実施や、産後ケア事業の拡充として、今までのデイサービス型に加え、宿泊型を導入するなど、子育て支援の充実を図っております。

後期高齢者医療特別会計介護保険特別会計については高齢化の進行に伴い、増加の傾向にあります。

久保特定土地区画整理事業については、予算としては増額をして進捗を早めたい狙いがありますが、財源となる国庫補助金が予算どおりにつけていただけず、決算では大幅に減額になるという流れが続いています。

国民健康保険特別会計はほぼ横ばいです。令和5年度の国民健康保険税に関しては賦課限度額の引き上げを行います。国民健康保険の特別会計は、当初予算の比較だと前年度比で0.1%、620万円の微増ですが、この会計の7割を占める保険給付費を見ると、令和4年度の当初予算44億923万1千円に対し、令和4年度の最終予算は46億9102万6千円と2億円増えています。令和5年度の当初予算は44億5,668万8千円なので、令和4年度の最終予算との比較では2億円以上の減です。令和4年度は新型コロナ関連の診療費が増加したことが原因のようで、令和5年度に関しても昨年度のように大きな波が来た場合には予算が不足することが懸念されます。診療費の動向を注視するよう討論で求めました。

令和5年度以降の財政運営について

まずは「財政計画どおり令和5年度から公債費が減少する。今後の市債の活用は。公債費の水準をどうコントロールするか。」という質疑です。下のグラフをご覧ください。

北本市では平成22年~26年度まで市の借金である普通債の発行額が増加を続け、最大で17億円を超えた年度がありました。これは、小中学校の耐震化・大規模改修市役所新庁舎を建設したためです。同じ時期、国の借金の肩代りである「臨時財政対策債」も高水準で推移していました。そのため、それよりも少し遅れて毎年の借金の返済である公債費が増加し、特に令和3、4年度でピークを迎えておりましたが、平成27年度以降の借入れを抑制してきたことで、令和5年度になって公債費が21億円まで下がってきたという状況です。一方で、普通債の借入額に関しては再び増加の傾向が見て取れます。

これらを踏まえた上で今後の財政運営をどうするのか確認するための質疑でした。答弁としては公債費の額を毎年20億円程度、市の借金である普通債の発行額の上限目安を10億円とするという答弁でした。つまり発行額としては、庁舎建設の時のような水準まで上げることなく10億円程度で平準化することで、公債費を20億円に抑えたいということです。こうした目安をしっかりと定めていることに関しては、評価をしております。

一方で、このグラフには、北本市の大規模公共事業である久保特定土地区画整理事業の市債が含まれておりません。北本市の財政計画でも、久保の事業に関する市債は含まれておりません。

そこで「久保特定土地区画整理事業の市債発行額と公債費」について質疑したところ、「令和2年度から完了予定の令和33年度までで、市の負担額が約77.2億円、市債対象事業が約60億円になる。32年間で平準化し1年当たり1.9億円となる。令和5年度当初予算は2億1,510万円を計上した。」との答弁がありました。この答弁は計画ではなくあくまでも市が見直しを発表したときの試算にすぎません。

今後、北本市にとっては久保特定土地区画整理事業と公共施設マネジメントが大きな投資事業となりますので、これらを含めた財政計画を立てる必要がある、ということを主張しました。

5類移行後の新型コロナウイルス対策について

政府は5月8日から感染法上の分類を5類とすることを発表しています。市としては、これまでは国から多くの交付金を受けて、感染防止や感染拡大の防止や経済対策、物価高騰対策など様々な事業を実施してきましたが、令和5年度には国からの交付金が大きく縮減されることが予想されます。5類に移行することで、感染拡大に歯止めがかからなくなる恐れもあります。そこで、市としての予算上の対応について確認しました。

まず、ワクチン接種の経費としては、令和4年度から延長線上の予算のみを計上しています。予算編成時点では令和5年度以降の接種については国から発表されていませんでした。今後国の決定や予算措置に合わせて、補正予算が計上される見込みです。

また、ワクチン以外の予算については自宅療養者物資支援事業として98万7千円、庁舎、学校、保育所等における感染症対策物品購入経費として302万6千円を計上しています。必要に応じて補正予算や予備費で対応していきたい、との答弁でした。当初予算では最小限の予算のみを計上し、今後必要に応じて補正予算や予備費により対応するということです。

令和の日本型学校教育への対応について

国では、一人ひとりに適した教育の実施、個別最適な学びを行うとしています。これは望ましい方向性ですが一方で教員の負担は大きくなります。そこで、個別最適な学びと教員の働き方改革を実現するための方策として、少人数学級の対応、教員をサポートするスタッフの増員、ICTの活用、部活動の外部人材活用や地域移行について質疑しました。

少人数学級については県が定数の管理を行っていますので、令和5年度は小学4年生まで確実に35人以下となるよう配置されます。

また特別支援教育支援員1名、スクール・サポート・スタッフ4名を増員します。

ICTの活用に関しては少し遅れています。「学校教育課にICT支援員を1人配置し、各校の授業や校務でのICT活用をサポートしている。令和5年度は市教委をICT運営センターとし、各校にICT運営支援員を配置する。」ということです。

部活動についても見直しを行っているところです。

また「ICTによる学びの個別化への対応」について確認したところ「「まなびポケット」の研究実践を行った。学びたい学年や単元を選択すると動画で学習内容の説明があり、その後課題に取り組み、自動で採点される。」という答弁がありましたがこのアプリでは履歴が残らず教員が確認することもできないことから、あまり実用的ではありません。個人情報の管理に課題があるようですがしっかりと課題を解決して、実用化していただきたいと思います。

めざせ日本一、子育て応援都市宣言に関する取組について

子どもの権利の普及啓発に関する予算について、子どもの権利を定着させるためには普及啓発が非常に重要です。令和4年度から子どもの権利擁護委員が講師となり出前講座を実施しています。そこで使う小冊子や普及啓発用品の作成費用を計上されています。令和4年度に引き続き行動計画策定の経費や子どもの権利の日のイベントの予算なども含め、合計で515万6千円(子どもの権利擁護委員に関する予算は別途)を計上しているとのことでした。

まず、新型コロナ対策として令和5年度予算に計上されたのは最小限度であり今後の感染拡大や5類移行を見越した予算は計上されていないことが判りました。

また、地域共生社会日本一の子育て応援都市を標榜しておりますが、保育所の待機児童や学童保育の過密の解消は見通しが立っていません。危機感がないというよりも成す術がなく手をこまねいている状況です。

重層的支援体制の拡充については評価したいところですが、アウトリーチの予算が216万8千円では1人分にもなりません。できれば圏域ごとに1人、計8人、最低でも中学校区ごとに1人、計4人は欲しいところです。更なる拡充が望まれます。

障がい者への支援についてはほぼ民間事業者任せです。民間事業者の努力によってなんとか成り立っている状態です。また、今回一般質問で取り上げましたが、障がい者の一般就労について北本市はかなり遅れていることが判りました。速やかな対応を求めたところです。

将来見通しが不十分な債権管理については、市の財政計画の中に久保特定土地区画整理事業が入っていないこと、国の借金の肩代りで財源が保障されている臨時財政対策債が入ってしまっていることを、問題点として指摘しました。これらを踏まえた現実的な財政計画に改善する必要があります。

また、公共施設マネジメントにおいて市の公共施設を半減する計画ですが、廃止する施設の目途が立っていない状態です。機能移転のための改修などに予算を掛けながら、古い施設も廃止できず、維持管理予算が削減できない恐れがあります。公共施設マネジメントを着実に実行するために、地域にとって不可欠な機能をどうやって維持するかについて、しっかりと議論し、実行していく必要があります。

最後に人事管理です。2年連続で「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」を北本市の職員が受賞しましたが、その後2人とも退職しました。この他にも定年を待たずして優秀な職員が退職してしまっています。人事管理に問題があるのではないかと思います。モチベーションの維持と職員の資質向上を図るため、人事評価や人事異動、研修の実施など、見直すべき点があるのではないかと思います。

北本市の財政状況は、基本的には良好な状態を保っておりますが、不安な要素もたくさんある、というのが現状ですので、これからも引き続き、厳しい目で北本市政をチェックしていきたいと思います。