北本市令和6年度当初予算解説

北本市議会令和6年第1回定例会において、市長から提案された令和6年度当初予算は、全て原案のとおり可決されました。各議員の本会議における賛否の状況は次のとおりです。

一般会計 【反対】湯沢議員・中村議員 その他の議員は賛成
後期高齢者特別会計 【反対】毛呂議員・湯沢議員・中村議員 その他の議員は賛成
久保区画整理特別会計 全員賛成
国民健康保険特別会計 全員賛成
介護保険特別会計 【反対】毛呂議員・湯沢議員・中村議員 その他の議員は賛成
公平委員会特別会計 全員賛成
下水道事業会計 全員賛成

歳入

歳入では、市税はほぼ横ばいです。地方消費税交付金は減額を見込んでいます。これは国において減額を見込んでいることを踏まえたものです。地方交付税は増額を見込んでいる一方で、地方交付税の振替措置である臨時財政対策債は減額となります。寄附金はふるさと納税寄附の増加(R5:11.1億円→R6:13.1億円)を見込んでいますが、令和5年度の寄附受入額は伸び悩んでおり(令和6年2月1日時点で11.1億円)、予算額が確保できるかどうか微妙です。臨時財政対策債を除く市債は9.9億円となりました。なお、市債発行額(借入金)と返済額(公債費)について、こちらのページ(http://sakuraisuguru.jp/2024/03/23/zaiseiplan-ketsugi/)で詳しく書いています。

歳出

増加が目立つのは民生費と総務費です。増額要因のうち高額事業については、「高額事業」の項目で説明しています。高額事業の他では、地方公共団体情報システムの標準化・共通化に伴う予算(80,541千円)が目立ちます。また、北本市の最上位計画である「第5次総合振興計画」が令和7年度で終了することから、新たな計画となる「第6次北本市総合振興計画策定事業」の予算が計上されています(11,636千円)。これは2年かけて策定されるもので、本市の今後の方向性を決める大変重要な計画となります。

主な歳出事業・予算は、市のホームページに掲載されていますので、ご覧ください。
https://www.city.kitamoto.lg.jp/material/files/group/13/R6shinnkioyobishutarujigyou.pdf

なお、三宮市長が市長選の公約のトップに掲げていた「小・中学校給食費完全無償化」について、令和6年度は中学生については給食費本体(月額5,200円)と物価高騰分(15%・780円)分を引き続き無償としますが、小学生については物価高騰分(15%分・月額675円)のみを無償とし、給食費本体分(月額4,500円)の無償化は終了することとなりました。完全無償化の終了については、こちらのページ(http://sakuraisuguru.jp/2023/12/12/r06kyushokumushouka-shukushou/)で解説しています。小学生の給食費本体分が令和6年度当初予算に計上されることを願っていましたが、他に優先すべきものがあるとして予算化が見送られました。本市の財政状況や今後の支出増を考慮するとやむを得ないところはありますが、財政事情を良く知る現職市長として公約に掲げておきながら実現できなかったことについては、批判は免れないと言えます。

高額事業

高額事業の中で増額が目立つのは、後期高齢者医療広域連合負担金障害福祉サービス費です。後期高齢者医療広域連合負担金は、後期高齢者の増加に伴い今後も増加が見込まれます。障害者関係では、ここには掲載していませんが「障害児通所給付費」も近年著しい増加傾向が見られます(R5:215,610千円→R6:252,494千円)。令和5年度は当初予算では足りず、増額補正を行っています。児童手当支給業務経費は、児童手当の増額は支給対象が高校生まで拡大されるなど、制度拡充に伴う増額です。子ども関係では、子ども医療費の無償化に係る費用も令和5年度の利用実績を踏まえ大きく増額しています(R5:245,557千円→R6:323,478千円)。

主な新規事業

桜井の討論

令和6年度一般会計当初予算は、過去最高となる242億1千万円が計上された。高齢化の進行、公共施設の老朽化への対応、地球温暖化や自然災害対策、鴻巣市・桶川市と比べて遅れを取っている都市基盤整備への対応など、本市が抱える諸課題に対応しようとした結果、予算額が大きく膨らんだものと理解する。

令和6年度から第6次北本市総合振興計画と立地適正化計画を策定する予算と、台原地区・中丸南地区土地利用可能性検討調査を実施する予算も計上されている。原則論で言えば、人口が減少していく中で新たな住宅基盤整備は必要ないが、一方で、鴻巣・桶川では駅前を中心とした居住環境の整備が進んでいる。本市でも久保特定土地区画整理事業の方針が定まり、上尾道路も事業着手された中、原則どおりコンパクトを保つのか、それとも市街化区域を広げ本市が発展する道を探るのか、難しい判断が迫られている。これらの計画は、本市の今後のまちづくりを決める上で極めて重要なもの。計画を実行するための財源や人材をどうやって確保するかも含め、子どもを含む市民の皆様にもしっかりと考えて、意見を出していただき、計画に反映するように進めていただきたい。

福祉分野では、中丸第2学童保育室の整備費用が計上されましが、まだ他の多くの学童保育室では混雑が続く。数年来問題になっている保育所の待機児童も解消の見通しが立っていない。引き続き学童の混雑解消、保育所の待機児童解消に全力で取り組んでいただきたい。また、重層的支援体制整備事業と生活困窮者自立支援事業については、それぞれ拡充され、本市におけるセーフティネットづくりが一歩ずつ前進している。これらの事業については、体制を整えること以上に、どのように運用するかが重要。できるだけ多くの案件を取り上げる中で、不足する制度や資源が明らかになってくる。試行錯誤を重ねて、よりよい事業となるように育てていただきたい。

公共施設マネジメントに基づく取組は、栄市民活動交流センターの改修に着手できず、勤労福祉センター及びコミュニティセンターからの機能移転が遅れている中で、体育センターの特定天井等改修の経費、文化センターの改修に向けた設計費が計上された。市長公約の一つである小中学校体育館への空調設備の設置も、設計費が計上された。久保特定土地区画整理事業でも10億円を超える予算が計上されている。令和5年度の起債が繰越となったこともあり、令和6年度中起債見込額は16億6,340万円となる。令和7年度以降も普通建設事業の増加が予想され、今まで以上の財政規律が必要となる。

教育分野は、スクールサポートスタッフが増員されたことは評価できるが、スクールカウンセラーの配置や一人一台端末を活用した個別最適化した学びの提供や教員の負担軽減など、まだまだやるべきことが多い。何よりも、子どもたちが勉強をすること、学校に行くことが楽しくなるような学校づくりに、引き続き全力で取り組んでいただきたい。

市長公約のトップに掲げられていた小中学校給食費の完全無償化については、議会としても請願を二度採択しており、強く要望してきたが、小学生については物価高騰分のみの無償化となった。今回の予算編成を見ると、苦渋の選択で見送ったことは理解する。しかし、現職市長であれば、国や県からの補助なしでは完全無償化の継続が難しいことは分かっていたのではないか。分かっていながら国や県の補助を期待して公約に掲げたのか、何とかやりくりできると思って掲げたのかはわからないが、市民に対してしっかりと説明責任を果たす必要があるのではないか。改めて公約が実現できるよう、最善を尽くしてください。以上、懸念はあるものの、概ね妥当な予算案であると評価する。

予算額の推移

後期高齢者医療特別会計は、被保険者数(75歳以上人口)の増加及び保険料の引き上げにより、予算額が増加しました。

介護保険特別会計は、介護サービス利用者の増加により、予算額が増加しました。なお、令和6年度から第9期介護保険事業計画期間がスタートし、介護保険料も改定されました。

久保特定土地区画整理事業特別会計は、市長が提案した見直し方針を議会が容認したことに伴い、事業のスピードアップを図るため、予算額が増加されました。

後期高齢者医療特別会計

令和6年度から保険料が引上げられるため、保険料収入が増加します。また、これに伴い、保険料軽減分に係る一般会計からの繰入金も増加します。これらを合算し、広域連合に納付しますので、歳出も同様に増加するものです。なお、後期高齢者医療制度の運営主体は埼玉県後期高齢者医療広域連合で、広域連合において保険料の額を決定しています。

令和6・7年度埼玉県後期高齢者医療保険料率について(埼玉県後期高齢者医療広域連合)
https://www.saitama-koukikourei.org/news/post-5587-3/

桜井の賛成討論

本特別会計は、後期高齢者医療保険料を徴収し、保険料軽減分を一般会計から補てんし、後期高齢者医療広域連合に納付するための会計。令和6年2月16日に開催された埼玉県後期高齢者医療広域連合の令和6年第1回定例会で、保険料を改定する『埼玉県後期高齢者医療広域連合後期高齢者医療に関する条例の一部を改正する条例』が提案され、可決されている。正当な手続きにより決められた保険料に基づく負担金を、広域連合の一員である北本市が支払う義務があることは言うまでもない

後期高齢者が安心して医療を受けられるようにするため、保険料を徴収し、広域連合に負担金を支払うのは当然である。

久保特定土地区画整理事業特別会計

令和6年度は、西仲通線と久保大通線(上図の赤線部分)の整備を重点的に進めます。雨水管渠埋設工事を行うとともに、一部区間において街路築造工事に着手し、令和7年度の開通を目指します。

南部地域整備基金の活用

令和6年度当初予算編成に当たり、南部地域整備基金の活用について、画像のとおり説明がありました。令和4年度末時点で約11.2億円の残高がありますが、今後はこれを久保特定土地区画整理事業、西仲通線整備、石戸下踏切整備などに活用していくというものです。

特に、久保特定土地区画整理事業については、国の交付金の内示割れがあった場合に、基金を繰り入れて進捗を確保するとしています。

なお、久保特定土地区画整理事業のスピードアップに伴い、市債発行額(借入金)が増加し、南部地域整備基金の活用等により基金(貯蓄)が減少することから、本市の財政状況の悪化が懸念されるため、令和6年第1回定例会において『久保特別会計を含む財政計画の策定を求める決議』を提案し、可決されました。

桜井の討論

これまで停滞していた区画整理事業を加速させようという意図は理解できる。

しかし、久保事業の進捗が遅れている大きな理由の一つに、国からの交付金が予算どおりに付かないという問題がある。令和6年度当初予算では国庫支出金として2億6,805万円が計上されているが非現実的。ここまで予算額を膨らませる必要があったのか、実際に10億円を超える事業の執行が可能なのか疑問が残る

さらに国の交付金が内示割れした場合には、不足する財源を南部基金整備基金から繰入れ、進捗を確保するとの説明があった。国庫補助対象事業を国庫補助を充てずに自主財源を充当して実施するのは、相当な緊急性が求められる場合か、自主財源を充当することで事務費を軽減できるなど明確なメリットがある場合に限られる。都市計画決定の変更も済んでいない、久保特別会計を含んだ財政計画も策定していない状況でやるべきことなのか、財政状況に余裕があると言えない北本市がやっていいことなのか、現時点での判断は極めて困難。

まずは、市長自らが国を直接訪問し、事情を説明ししっかりと交付金を交付するよう要望を行ってください。そして、南部地域整備基金は財政調整基金ではないので、南部地域整備基金を活用する場合には、議会の議決が事後承諾とならないよう、事前に補正予算において繰入金の計上を行うべきであるということを強く申し上げる。南部地域整備基金の活用については、補正予算に計上された時に、慎重に審査させていただく。

国民健康保険特別会計

令和6年度は、国民健康保険税の税率改定はありません(賦課限度額は102万円から104万円に引上げ)。加入者の減少に伴い、国民健康保険税収入は8.3%減を見込んでいます。

保険給付費は、令和5年度中に増額補正(5,712万円)を行っていることから、令和6年度当初予算も前年度比で増額としています。

国民健康保険税率の見直し

直近では令和4年度に引上げを行った国民健康保険税の税率改定について、令和6年度当初予算編成前で約4.3億円の国保財政調整基金の残高があることから、令和6年度からの改定を見送っています。県が示す標準保険税率との差は次のとおりです。

なお、埼玉県では県内市町村における保険税水準の統一を行うこととしています。保険税水準の統一を目指すことについて記載されている『埼玉県国民健康保険運営方針(第3期)』は、埼玉県ホームページに掲載されています。

介護保険特別会計

介護保険事業に係る計画『介護保険事業計画』は3年に1度改定しており、令和6年度から新たに第9期がスタートします。改定のたびに、介護サービスを提供するために必要な給付費に応じて介護保険料が改定されます。本市における新たな介護保険料については、こちらのページ(http://sakuraisuguru.jp/2024/03/27/r06-03gian/)で解説しています。

令和6年度から、重層的支援体制を本格的に実施するため、地域包括支援センター業務委託料、生活支援体制整備業務委託料を一般会計(民生費・社会福祉費)に計上しており、地域支援事業費が大きく減額となりました。また、これらの事業に必要な財源を特別会計で歳入した後、一般会計に繰り出すため、諸支出金(一般会計繰出金)が大幅増となっています。

介護サービス給付費の増減

予算のほとんどを占める保険給付費(介護サービス給付費)の内訳は次のとおりです。居宅介護サービス給付費では、通所介護(600,195千円)、訪問介護(293,355千円)、通所リハビリテーション(209,341千円)、特定施設入居者生活介護(420,729千円)などが大きな割合を占めています。地域密着型介護では、認知症対応型協働生活介護(345,678千円)が大半を占めています。施設サービス費は特養・老健ともに減額を見込んでいます。

桜井の討論

本会計予算は、市民が必要とする介護サービスを提供できるよう、予算を確保する必要があるもの。本予算が可決されなければ、介護サービス給付費が支払えなくなり、介護事業所は資金ショートを起こしてしまう

議案第17号の賛成討論で申し上げたとおり、本市は低所得層にも高所得層にも配慮した保険料の引上げを行っている。現行制度の中で市ができることは限られており、十分な配慮をしたものと評価する。

本予算に基づき、第9期介護保険事業計画を確実に実施するとともに、介護認定の迅速化を図ること、緊急時通報システムをより利用しやすいものとし普及の促進を図ること、認知症の早期発見につながるよう認知症と相談窓口の周知徹底を図ることを求め、賛成の討論とする。

公共下水道事業会計

収益的収支では、令和5年第4回定例会において下水道料金を引き上げる条例案が可決されており、下水道使用料が528,018千円から585,477千円に増加します。一方で、埼玉県に支払う「流域下水道維持管理負担金」が302,566千円から358,144千円に増額となりました。使用料の引上げにより一般会計からの補助金の削減を期待していましたが、231,000千円から223,345千円と、わずかな削減にとどまりました。

資本的収支では、下水道整備工事(5か所)、耐震対策工事(3か所)、舗装本復旧工事(3か所)を計画しています。老朽化した管渠のTVカメラ調査を実施しており、令和5年度は一番古い場所の調査を実施、令和6年度は古市場交差点からワコーレロイヤルガーデン区間の調査を行う予定です。

【参考】令和6年6月から下水道使用料が変わります(北本市ホームページ)
https://www.city.kitamoto.lg.jp/soshiki/toshiseibi/kensetsu/gyomu/g2/gesuidougyoumu/15873.html