北本市は、令和3(2021)年9月16日に鴻巣市、吉見町と「新たなごみ処理施設の整備促進に関する基本合意書」を締結。現在2市1町の枠組みでごみ処理を行っている埼玉中部環境保全組合において、新ごみ処理施設を整備することとなりました。
ここでは、新たなごみ処理施設の整備費について、鴻巣行田北本環境資源組合(鴻巣市・行田市・北本市)で検討してきた内容や、他の自治体の事例について見ていきます。
鴻巣市・行田市・北本市の3市による整備計画
平成25年2月に鴻巣市・行田市・北本市の3市によるごみ処理の広域化(複数の市町村が共同で処理を行うこと)が決断され、平成25年3月定例会の全員協議会において事業費として総額118億2,200万円、北本市の負担額が29億9,815万円と示されたようです。これが3市による広域処理が決まった後、最初に示された事業費だと思いますが、当時の記録が残っていないため詳細は不明です。
広域処理に向けた基礎調査(広域化方針)報告書 平成28年2月
鴻巣市・行田市・北本市の3市での施設整備を進める鴻巣行田北本環境資源組合において、最初に事業費が示されたのは平成28年2月の『広域処理に向けた基礎調査(広域化方針)報告書』です。ここで示された概算の整備事業費と運営維持管理費(20年間)は次のとおりです。
ここで示された概算事業費は、プラントメーカーへの調査結果を元に資源組合において整理されたものです。税抜きで施設整備費249億円、運営維持管理費132億円(合計381億円)と示されました。この報告書では、財源内訳(国からの交付金、地方債、一般財源)についても試算しています。
『広域処理に向けた基礎調査(広域化方針)報告書』
koikikahosin_20160218(PDF)
施設整備基本計画 平成29年3月
正式な計画の中で概算事業費が示されたのは、『鴻巣行田北本環境資源組合施設整備基本計画』が最初です。ここで示された概算事業費は次のとおりです。
施設整備費248億円、運営維持管理費170億円(合計418億円(税抜))が示されました。消費税等を10%で計算して加えると、合計で459.8億円となります。
施設整備費約248億円の財源内訳については『鴻巣行田北本環境資源組合PFI等導入可能性調査報告書』の51頁以降に記載されており、循環型社会形成推進交付金(国費)約77億円、一般廃棄物処理事業債約128億円、財源対策債約19億円、一般財源約24億円となっています。
概算事業費は、プラントメーカーからの回答を参考に設定されたものです。回答は5社から得られ、施設ごとに2社又は3社から示された額の平均を積み上げています。詳しい説明は『鴻巣行田北本環境資源組合PFI等導入可能性調査報告書(資料編)』の29頁以降をご覧ください。
『鴻巣行田北本環境資源組合施設整備基本計画』
sisetuseibikihonkeikaku_201702(PDF)
『鴻巣行田北本環境資源組合PFI等導入可能性調査報告書』
donyukanoseityosa_201702(PDF)
『鴻巣行田北本環境資源組合PFI等導入可能性調査報告書(資料編)』
sisetuseibi_donyukanosei_siryohen(PDF)
破綻直前に示された概算事業費 令和元年10月
鴻巣行田北本環境資源組合が示したもの
鴻巣行田北本環境資源組合では、施設整備基本計画において概算事業費が示されたものの、これには造成・外構工事費が含まれておらず、総事業費が分からないままでした。組合議会では、議員から度々総事業費に関する一般質問がされていましたが、組合執行部は明言を避けてきました。
資源組合が最終的な概算事業費を示したのは令和元年10月です。示された実際の資料は次のとおりです。この直後の12月12日に白紙解消が合意されました。
総事業費には幅があり、603.2億円~611.4億円となっています。一気に事業費が膨らんだようにも見えますが、これ以前に示されていた概算事業費は税抜きだったうえ、今回の概算事業費には新たに余熱利用施設や周辺環境整備なども含まれたため、合計額が膨らんだものです。
平成29年2月の施設整備基本計画で示された概算事業費との比較は次のとおりです(桜井が独自に作成したもの)。
平成29年2月に未算定だった建設費のうちの造成・外構工事費が計上されたため、設計・建設費が約59億円増加しています。この後に示す行田市作成の資料によると、造成工事費が約29.2億円、外構工事費が約17億円、合計で約46.2億円です。また、運営費については、近年の働き方改革や最低賃金の上昇による人件費の上昇や物価の上昇が影響したものと考えられます。
行田市が示した事業費試算
次に、資源組合の試算を参考として、行田市が示した『行田市小針に建設した場合の事業費試算』は次のとおりです。
行田市とすれば、鴻巣市まで運搬して処理するよりも行田市内で処理した方が収集運搬費が安くなるうえに、市が所有している用地を組合に購入させることで用地取得費(2億8,940万円)が行田市の収入となります。行田市にとっては財政的な負担が大きく軽減できるため行田市に建設した場合との比較検討を強く求めていたものと思いますが、そのような主張は「鴻巣市内に建設する」と決めた3市合意の前にすべきだったのではないでしょうか。
なお、建設費が安くなったとしても、北本市からの距離は遠くなる(北本市役所からの直線距離:埼玉中部環境センターまで4.0km、郷地安養寺まで5.6km、行田市小針まで11.3km)ため、北本市の収集運搬費は確実に高くなります(令和3年度の可燃ごみの収集運搬費用は約1億1,760万円)。
3市による合意は令和元年12月12日に白紙解消されました。
旧組合が示した概算事業費の評価
設計・建設費
過去の他団体における事例を見ると、日量1トン当たり8~9千万円が一つの目安になります(その2を参照)。新施設の処理能力は日量239トンで、331.7億円だと1トン当たり1.4億円近くになり割高に見えます。しかし、資源組合では熱回収施設(=焼却施設)だけでなく不燃ごみの処理施設なども含んでいることや、あくまでアンケート調査の結果であることを踏まえると、この時点で割高になることはやむを得ないと考えます。
運営費(20年間)
過去の他団体における事例を見ると、年当たり7億円前後が一つの目安になります(その2を参照)。234.4億円だと年当たり11.7億円で相当割高ですが、設計・建設費と同様の理由で割高になったものと考えられます。
余熱利用施設・周辺施設整備
地元要望に基づくもので、この時点で最大限に近い数字で計上したものですが、具体的にどこまで地元要望に応じるかや構成市の負担割合については、結論が出ていない状態でした。
北本市の負担割合
ここまでに示した概算事業費は、鴻巣行田北本環境資源組合として負担する合計の額です。人口やごみの搬入量によって構成市で按分する方法が一般的です。
埼玉中部環境保全組合における按分率
人口割(20%)前年度の1月1日の住民基本台帳人口
処理量割(80%)前々年度の1月1日から前年度の12月31日までの処理量
仮に住民基本台帳人口で按分するとした場合の北本市の負担割合について、鴻巣市・行田市・北本市の3市で構成した場合、鴻巣市・北本市・吉見町の2市1町で構成した場合の違いについて見てみます。
鴻巣行田北本環境資源組合で議論をしていた時の北本市の負担割合は4分の1でしたが、埼玉中部環境資源組合においては約3分の1と理解しておけばよいでしょう。
鴻巣行田北本で総事業費600億円(北本市の負担額150億円)なら、埼玉中部では450億円程度まで総事業費を縮減しないと、前の枠組みより北本市の負担が増えることに注意が必要です。
その2では、最近入札のあった他団体(市町村・一部事務組合)における事例について確認します。