2021年度に入札を実施した他団体の事例
次に、他団体(市町村・組合)におけるごみ処理施設整備の事例について見てみます。
株式会社環境産業新聞社が発行している月刊誌『都市と廃棄物』に、年1回、廃棄物処理施設建設事業の受注動向が掲載されます。
施設規模ごと(100t以上、50~99t、49t以下)に件数、規模(t/日)合計、契約金額合計、日量1トン当たりの単価や、発注した事業主体(市町村・組合)、受注企業などが公表されており参考になりますが、肝心の事業主体ごとの落札額までは公表されていません。
そこで、2021年度に発注された熱回収施設(ごみを焼却しエネルギーを回収する施設)として掲載されている14施設のうち、規模が100t/日以上の11施設について各事業主体のホームページなどから調査した結果を掲載します。
注目していただきたいのは赤字の日量1トン当たりの施設整備費です。施設規模が大きくなるほど単価が安くなるのが一般的です。
川口市は日量1トン当たり1.5億円を超えていますが、現有施設の解体や不燃・粗大ごみ処理施設整備が含まれているためと考えられます。枚方京田辺環境施設組合は168t/日と中規模ですが、施設整備費、維持管理運営費ともに比較的安くなっています。熱回収施設整備費の一応の目安としては、日量1トン当たり8千万円から9千万円ほどになると思います。
運営費については、こちらも施設の規模や対象範囲によって金額はまちまちになりますが、年間4.5億円から6.5億円が中心になっています。
なお、11施設の建設場所の地理的条件については、海岸近く、川沿い、山間部など様々ですが、鴻巣市郷地安養寺地内のように河川の氾濫で想定浸水深が3m前後という場所はありませんでした。名古屋市の南陽工場が河口近くなので津波・高潮対策や液状化対策を講じている可能性がありますが、名古屋市ホームページでは要求水準書が公開されておらず、詳細は分かりませんでした。名古屋市南陽工場は日量1トン当たりの整備費が約6,500万円と割安ですが、施設規模が巨大なため、あまり参考にはならないでしょう。
久喜市新ごみ処理施設整備運営事業
久喜市の新ごみ処理施設整備について
久喜市では市内3つのごみ焼却施設が老朽化したため、これらを1つに統合し、施設運営の効率化を図ることとしました。建設地は久喜市菖蒲町台で、現在稼働中の菖蒲清掃センターの隣接地です。
2017(平成29)年度に『ごみ処理施設整備基本構想』、2020(令和2)年度に『ごみ処理施設整備基本計画』を策定し、2022(令和4)年6月に事業者を決定しました。2027(令和9)年4月稼働予定です。
久喜市の施設整備は現有工事の解体を含む点で埼玉中部環境保全組合が進める施設整備とは異なるものの、区域内(久喜市、宮代町)の人口の合計が鴻巣市・北本市・吉見町の合計と近く、水害時の想定浸水深や地盤も似ていることから、埼玉中部環境保全組合が整備する施設の参考になると思います。
久喜市・宮代町の合計人口は約18万3千人、鴻巣市・北本市・吉見町の合計人口は約19万9千人です。人口は久喜・宮代の方が少ないですが、プラスチック(容器包装・製品)を焼却処理するため、埼玉中部と同等以上の処理能力が必要になったものと考えられます。
鴻巣行田北本環境資源組合で想定していた処理能力は日量239トンでしたが、埼玉中部環境保全組合の新施設では令和3年度の処理量から日量110~150トンの間としています(令和4年第1回臨時会議事録から)。久喜市の新施設よりもやや小さくなる見込みです。
実施方針
入札は令和3年9月6日に公告され、令和4年6月6日に落札者が決定されました。入札にあたり『(仮称)久喜市新ごみ処理施設整備運営事業の実施に関する方針』で示された事業の内容は次のとおりです。
■施設整備
エネルギー回収型廃棄物処理施設 155t/日
マテリアルリサイクル推進施設 11t/5h
ストックヤード棟
現有施設(隣接地)の解体を含む
■施設運営
運転管理・維持管理 20年
※余熱体験啓発棟の整備・運営は別事業
入札の結果
3つの企業グループ(日立造船、川崎重工業、タクマが代表企業)から入札があり、日立造船株式会社を代表企業とするグループが選定されました。金額では3グループで最も高額でしたが、提案内容により総合評価で選ばれました。落札率(予定価格に対する落札価格の比率)は78.0%でした。(久喜市ホームページ:落札者の決定)
なお、久喜市では施設整備費と運営維持管理費の内訳を公開していません。
税抜きの入札価格は、383億6,200万円です。先に見た2021年入札の他団体事例と比較すると、解体やマテリアルリサイクル施設整備を含むためか、かなり割高に感じます。割高となった理由について、久喜市議会令和4年9月定例会の一般質問において貴志信智議員が「他自治体と比較して突出して高額」と指摘し、環境経済部長も「高い」と認めています。
ごみ処理施設整備基本計画等に示した約359億円との差(落札額は約422億円)については、物価上昇分25億円、にぎわい創出や災害対応・環境対策で30億円、ごみ処理稼動日数の違いで20億円と答弁されています。また、解体費用は12億円という説明が全員協議会であったようです。
貴志議員は他市の事例も詳細に調査した上で、落札額が高くなった要因について、①要求水準書に規定した特殊なデザイン(ごみ処理施設を感じさせない柔らかなデザイン、煙突と建物の調和、建物の4割以上を土で覆う等)、②債務負担行為額の設定方法(プラントメーカー複数社から提出された見積書を、項目ごとに異常値を取り除いたうえで最も高い見積額を積み上げて設定した)、③②について特ににぎわいの創出の部分の見積りが高すぎた、④総合評価方式の落札決定基準において価格差が最終評価に与える影響が小さい計算方法になっていた、などを問題点と捉え、一般質問で追及していました。大変参考になりました。
久喜市の事例や2022年度に入札された他団体の事例をさらに調べ、埼玉中部環境保全組合での審査に備えたいと思います。